2012.11/29 [Thu]
塩見鮮一郎『探偵イザベラ・バード 明治開化殺人事件』
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★☆☆☆☆
でも、そのまえに、調査し情報をあつめ推理をかさねて犯人にたどりつく、
そういう思考方法を伊藤に知らしめたい。事実を確かめ、合理的に論理を展開する。
これこそ未開の日本人が、イギリスやフランスから学ばねばならない基本なのだ。
1878年夏、日本奥地紀行の旅の途次、イザベラ・バードは粕壁の街道沿いのお地蔵さまのかたわらに、令嬢の右手首を見つけた。通詞の伊藤とともにバラバラ殺人事件に巻き込まれる、いや首を突っ込むイザベラ。たちはだかる宿場戸長・雁塔谷大満。西洋合理主義は、はたして真犯人にたどりつけるのか。
明治時代に極東の奥地を探検した実在の女性旅行家イザベラ・バードを探偵役に据えた歴史ミステリ――という触れ込みでしたが、ちょっと何これ。意味がわからない。
いかにも探偵小説調なタイトルに思わせぶりなオビの文句、バラバラ殺人に位置関係図の挿入とミステリ的な期待値を上げに上げておきながら、この内容はないでしょう。伏線や謎解き、探偵の活躍は一切なし。事件の真相は時系列をシャッフルした回想シーンですべて読者に語られ、それまでの聞き取り調査や尋問はまったくもって結実せず。しかも、物語が進むにつれて明らかになっていく婚約者ふたりの秘密と、第三章の過去パートで描かれる人物像とではどう考えても食い違いがあるのに1ミリも回収されないため、地の文で嘘を書いちゃっているのかすらも判断がつかない状態です。
おまけにシーンによっては大蛇やスズメといった人間以外の動物視点が入ってくるわ、後日譚とはいえ本文中に作者が一人称「わたし」で介入してくるわ、いくらなんでもめちゃくちゃすぎる。
結末もまるっきり理解不能。歴史の裏にあったかもしれないif解釈をひとつの物語として仕立てることを作品コンセプトにしていることはまぁ汲み取れます。けれど、ミステリ小説にすらなっていない作品でこんな「アンチミステリしてみました」的なオチをかまされても、正直置いてかれっぷりに呆然とするしかありません。
これでよくも「瞠目の歴史ミステリ」などと宣えたものです。完全に壁本。ここ数年内に読んだ中でいちばん酷かったかもしれない。
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