2012.11/27 [Tue]
長沢樹『夏服パースペクティヴ 樋口真由“消失”シリーズ 少女洋弓銃殺人事件』
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★★★★☆
私立都筑台高校2年生にして、弱小映研部長の遊佐渉は、新進気鋭の女性映像作家・真壁梓が、夏休みを利用して行うビデオクリップ制作のスタッフとして、撮影合宿に参加することに。そこには、美貌の1年生樋口真由の姿もあった。かくして、廃校となった中学校の校舎を改装して作られた山の中のスタジオでの撮影合宿が始まる。しかし、キャストとして参加していた女子生徒の一人が撮影中に突如倒れ込む……。なんとその生徒の胸には、クロスボウの矢が深々と突き刺さっていた!? 真由は残された映像をもとに超絶推理を始めるが、合宿は凄惨な殺人劇へと変貌してゆく――。
「樋口真由“消失”シリーズ」第2作。
デビュー作『消失グラデーション』の“かわいすぎる名探偵”樋口真由が探偵役を務める第二長編。前作の主人公である椎名の物語は綺麗に終わっているため、今回は映研部部長の渉がワトスン役を務め、新しいストーリーが紡がれます。
真由のようなキャラクターを一般ジャンルのミステリで探偵に起用していることにも驚きですが、何よりも読んでいてド肝を抜かれたのは、シリーズ未読者に対して1作目とまったく同一のトリックを再利用している点です。既読者にとっては読み進める上で邪魔にならず、初めて読む人にはどの巻から読んでも同じインパクトを味わえる。いやぁ、豪胆というか小狡いというか。下手をすれば手抜きと罵られてもおかしくないような紙一重の所業なのですが、すごいことを考えましたね。
その手のジャンルに並々ならぬこだわりがある自分としては、シリーズの特徴でもある生々しいエロは“聖域”を穢しているようで好きではないのですけど。わかってない! わかってないよ、長沢さん! そこまで踏み込まないところにこそ魅力と矜持があるんだよ!!
また、前作はトリック成立のためにかなり歪んだ状況を作り出していましたが、今作ではそうした無理をしてないのも良かったです。セミドキュメント風の推理劇にて出題されるクロスボウ密室(フィクション)の解答と、実際に発生する連続殺人(リアル)の真相が不可分なものとなっており、前者を詳らかにすることによって流れを辿ってごくごく自然に後者まで解き明かしてしまう運びの巧さには惚れ惚れします。
解決編をいかに綺麗にスマートに見せるのかも、ミステリにおいては重要な課題のひとつですからね。その観点から述べると、本作は文句なく美しいです。
450ページの長丁場のわりに、本題の殺人事件が残り100ページを切らないと始まらないというのはスロースターターすぎる気がしないでもないものの、小手先頼りの印象が強かった前作よりも確実にレベルアップしています。
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