2012.11/22 [Thu]
三津田信三『凶鳥の如き忌むもの』
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★★★★☆
海底に共潜き、海原に船幽霊、中空に鳥女を用心すべし――
瀬戸内海の兜離の浦沖に浮かぶ鳥坏島。鵺敷神社の祭壇“大鳥様の間”で巫女、朱音は神事“鳥人の儀”を執り行う。怪異譚蒐集の為、この地を訪ねた刀城言耶の目前で、謎の人間消失は起きた。大鳥様の奇跡か? 鳥女と呼ばれる化け物の仕業か?
「刀城言耶」シリーズ 第2作。
『本ミス』、『このミス』の常連作にいまさら言うのも憚られるのですけど、このシリーズ本当に面白いです。シリーズもののミステリでここまでハマったのは久しぶり。謎解きのクオリティは勿論のこと、民俗学的な蘊蓄・考察だけでも存分に楽しめる。逆に、蘊蓄系ミステリが苦手な人には結構な苦痛になってしまうかもしれません。
今回の舞台は本格ミステリの定番“嵐の孤島”もの。鳥杯島の聖域で秘儀を行った巫女が密室状況から忽然と姿を消し、彼女の行方と如何にして監視の目を掻い潜り祭壇から脱出したのかが焦点となってきます。
途中、密室からの人間消失における細密な分類が行われ、一見複雑なようにも感じますが、作中にかなりの量のヒントが撒かれていることもあって、脱出トリックそのものは割り合いわかりやすい。ただし、そこにいわゆる“見えない人”テーマが加味されているのが本作のテクニカルな部分であり、これによって真相を開示された瞬間の衝撃度はトリック単体で見た場合とは比較にならないほどアップしています。
唯一気になったのは、大鳥様信仰を初めとした宗教的要素や土地柄等、多くの部分で民俗誌からの引用が為されており、だからこそこの真相ならば流れとして当然、触れられて然るべき伝承(リンク先にネタバレを含むので、未読の方はご注意を!)があるにも関わらず、完全にスルーしてしまっている点でしょうか。内容が露骨すぎるので扱いが難しいとはいえ、ある程度民俗学に踏み込んでいるのに、そこだけ取り零しているのはどうにも据わりが悪い感じがしました。
まあ、大抵の読者にとっては問題にすらならない些事ではあるのですが、いち妖怪好きとしてはどうしても譲れないポイントだったので。
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