2012.11/09 [Fri]
島田荘司『アルカトラズ幻想』
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★★★★☆
一九三九年十一月二日、ワシントンDCの森で、娼婦の死体が発見された。被害者は木の枝に吊るされ、女性器の周辺をえぐられたため、股間から内臓が垂れ下がっていた。時をおかず第二の事件も発生。凄惨な猟奇殺人に世間も騒然となる中、意外な男が逮捕され、サンフランシスコ沖に浮かぶ孤島の刑務所、アルカトラズに収監される。やがて心ならずも脱獄した男は、奇妙な地下世界に迷い込む――。
ゴッド・オブ・ミステリーこと島田荘司の最新刊。アメリカで見つかったとある猟奇死体が、やがて歴史を揺るがす大事件へと繋がっていき――といったストーリーの一大エンタメ長編です。
本作は大きく分けて第一章~第二章の連続猟奇事件、第三章のアルカトラズからの脱獄劇、第四章のパンプキン王国、そして現代を舞台にした解決編で構成されており、それぞれ大変魅力的で、500ページ超の決して少なくないページ数にも関わらずいっきに読ませてくれます。
どこにでもいるような普通の人間が起こしたミクロな事件と、現代史を語る上で無視できないであろう最重要案件のマクロな視点。このふたつを一本の線として結び、またひとりの人物を主人公にした壮大でささやかな物語として〆めてみせる。そして、さらにこれがミステリ小説の枠内で表現されているところは圧巻です。
しかしながら、この構成が諸刃の剣となっているのも事実です。最初に投げられた猟奇事件とアルカトラズでの生活、最終的に現れる絵面の間にある繋がりがあまりにも薄いため、いち小説として読んだ際のまとまりが極めて悪い。ぶっちゃけ、これらのエピソードが一冊に詰め込まれている必然性が皆無なのです。
連続猟奇事件のくだりなんかは、あってもなくても大勢に影響しないどころか、むしろバランスを崩してしまっている感すらある。けれど、そのパートはそのパートで面白いものだから厄介です。
第二章にて突然挿入される「重力論文」も、恐竜絶滅論のアクロバティックな新説として興味深くはあるのですが、「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ! 楽しく小説を読んでいたら、いつの間にか論文を50ページも読まされていた」というポルナレフさながらの現象に陥ってしまうのは、ちょっとどうなんでしょう。いくら事件解明に必要な要素とはいえ、それはもう“手順”であって小説とは別のものなのでは、と思ってしまわなくもないのです。
地下世界の謎にしたところで本作がファンタジーではなく地に足の着いた物語である以上、当然その解決法もひとつに限られてくるわけで。時代背景も鑑みると“謎”として掲げるまでもなく真相が明白なのも、ミステリ的にはイマイチです。
他方、そのためのお膳立てに用いられた舞台装置には驚かされました。実はここ、テレビで特集が組まれる度に録画して観るくらい好きな場所なのです。まさに言われてみれば、といった感じでこの符合にはまったく気付きませんでした。
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