2012.11/05 [Mon]
青柳碧人『ヘンたて 幹館大学ヘンな建物研究会』
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★★★★☆
街中に溢れている、意味を失ったのに保存されている建造物
……見る人によっては『超芸術』っていう評価をする人もいるけれど、
とにかくこういうのを、『トマソン』っていうんだ
幹館大学ヘンな建物研究会、通称「ヘンたて」に入会した新入生の中川亜可美。個性豊かな仲間と一緒に新歓合宿で訪れた先は、扉が12枚ある離れを持つ老舗旅館だった。さらに高さ100メートルのエレベーター式マンション、城跡に残された隅櫓脇の謎のスペース、客室に回転ずしが流れるホテルなど、活動と称して見に行く建物は常にいわくつきで……。
今年になってから既に6冊も出している積読家泣かせの作家・青柳碧人による、連作ミステリ。SF、ミステリ、青春小説とジャンルを問わずに執筆活動を行っている青柳さんですが、『浜村渚の計算ノート 3さつめ』のあとがきを見るに相当な講談社ノベルス好きのようで、本作でもミステリーとミステリとミステリィの違いについて登場人物たちが首を捻るという、マニアックな小ネタが仕込まれています。“ミステリィ”を使うのは森博嗣ファンだよなぁ。
個人的には青柳さんのミステリセンスの良さには大いに期待を寄せている一方、 『判決はCMのあとで』や『ふえるま島の最終定理』を読む限りでは、ことミステリにおいては長編よりも短編の方が向いているんじゃないかとも思っていました。
本作『ヘンたて』は存在意義不明、用途不詳の不可解な建造物“トマソン”を題材にした日常の謎系館ミステリ。12個もの扉が取り付けられた離れ、各部屋がエレベーターになっている高層マンション、江戸時代の城跡に残された四辺を壁に囲まれただけの謎スペース、すべての個室に回転ずしレーンが通っているホテルなどなど、“建築法を守らない”でお馴染みのいかにも本格ミステリちっくな舞台で生まれる謎の数々を、幹館大学ヘンな建物研究会の面々が解き明かす。各章に挿入されているヘンテコな見取り図にも本格心をくすぐられます。
収録作のうち特に良かったのが第二話「アゲサゲ式1Rマンション、ひきこもり夏物語」です。人嫌いでゲーマーなひきこもり大学生が隣人だった美人モデルといきなり入籍した謎を探る話なのですが、この真相が儚くも素敵すぎて。続く「魚ヶ瀬城址中学校 青春のトマソン」と共に、ミステリ的には飛びぬけて面白かった。第一話のインパクトあるわかりやすさも嫌いじゃないです。
「浜村渚」の数学ミステリとはまた違ったアイデア満載の青柳ミステリ、日常の謎好きな人にはオススメです。
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