2012.10/30 [Tue]
友桐夏『星を撃ち落とす』
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★★★★★
津上有騎、水瀬鮎子、長岡茉歩、そして葉原美雲――四人の女子高生の不安定な対立感情が極限に達したとき、ひとつの悲劇が起きた。傷ついたのは誰で、嘘をついていたのは誰なのか? 先行きの見えない展開、反転する構図――禍々しくて華やかな、少女たちの四重奏。
何だかわからないけれどもの凄いものを読んでしまった、というのが第一の感想です。序盤は「〇〇は××の友達なんだから、△△は余計なちょっかい出さないで」とでも言いたげな思春期少女たちのぴりぴりとした対立関係がこれでもかと描かれ、そのあまりの生々しさに心を抉られと同時に、読んでいてかなりのストレスを感じます。
そして、これはいつになったらミステリになるのか?まさかこのリモコンの件が本題なのか?と不安に思いつつ進めていくと、第一章の終わりで一変、怒涛のようなひっくり返しが待っていました。
本作において争点となっているのは、“彼女はそのとき何を考えていたのか”といった心理面への斬り込みです。まるで飼い犬を散歩させるかのように茉歩の首に巻かれた紐を握っていた美雲、扉の奥に引き籠るA嬢、自殺未遂を目論んだ茉歩――。目の前で起こっている揺るがぬ“事実”を、どのように解釈するのか。周辺の状況と詳らかになっている情報から、論理と推理を用いて外堀を埋めてゆくことで他者には知りようのない「彼女」の本心に迫る。
新たな推理が提出される度に各キャラクターの人物像ががらりと色を変え、それぞれの行動の裏に潜む真意がまったく別の風景を映します。
ここでひとつポイントなのが、どの問題も最終的に答えが明示されない点です。どんなにその解答が“真実”に思えても、それは結局可能性の範疇にすぎず、本当のところはわからない。それ故に、底知れぬ怖ろしさを感じさせるのです。タイトルでもある『星を撃ち落とす』の意味がわかったときにはぞっとしましたね。
また、正解が明かされないことで、作中にて披露される推理がどれも「間違っている」とは言い切れず、多かれ少なかれすべての推理に無下にできない重みを与えています。
つまり、本作で行われているのは、状況から導き出せる可能性をひたすらに提示していくことであり、日常の謎でありながらも円居挽『丸太町ルヴォワール』や城平京『虚構推理 鋼人七瀬』といった 推理>真実 の多重解決モノの系譜に連なるタイプのミステリとなっています。こういう作品は、ちょっといままでに読んだことがない。
物語性、推理のボリューム共にお腹いっぱいで、個人的には『本ミス2013』対象期間内の作品ではベストに推したいです。知名度さえ何とかなれば5位圏内に食い込んできても全然おかしくない傑作でしょう。
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