2012.10/23 [Tue]
芦辺拓『スチームオペラ 蒸気都市探偵譚』
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★★★★☆
毎朝配達される幻灯新聞が食卓に話題を提供し、港にはエーテル推進機を備えた空中船が着水・停泊。歯車仕掛けの蒸気辻馬車が街路を疾駆する―ここは蒸気を動力源とした偉大なる科学都市。進路に頭を悩ませる女学生エマ・ハートリーは、長旅から帰還した父を迎えに港への道を急いでいた。父が船長をつとめる空中船“極光号”の船内で不思議な少年・ユージンに遭遇したエマは、ひょんなことから彼と共に名探偵ムーリエに弟子入りし、都市で起きる奇妙な事件の調査に携わることになる。
蒸気エネルギーとエーテルの発見により、仮想の歴史を歩んだ世界の“ガール・ミーツ・ボーイ”ミステリ。表紙のエマの可愛さとクラシカルで荘厳な雰囲気漂う装丁に惚れました。
全体を通して眺めると、ミステリ部分よりも少年少女の冒険小説としての要素に重きが置かれており、中盤以降は謎の少年・ユージンの正体とセカイの秘密に迫る壮大なストーリーが展開されます。なので個人的には楽しめたのですけれど、純粋に本格ミステリを読みたい!と思って手に取った人にとってはやや不満の残る作品かもしれません。
空想科学世界のミステリということで、そこで描かれる事件も当然、特殊設定モノ。SF的なガジェットを大いに利用して解明されるトリックの数々はまさしく、この世界観だからこそ実現可能な代物ばかりです。披露される“真相”の納得度も相応に高く、思考の埒外から解答が飛び出してくる特殊設定ミステリの面白さが充分に堪能できます。
それだけに、終盤におけるひっくり返しが余計に感じられなくもない。というのも“蒸気とエーテルの世界での論理”による解決がリアルにはありえないことだから故に、後から提示される推理よりも断然説得力が高くなってしまうという奇妙な逆転現象が起きているのです。
前半部の出来が良いだけに、サプライズがむしろマイナスに効いているのは勿体ない。やりたいことはわかるのですが、率直に述べて著者の目論見が裏目に出ているとしか思えませんでした。
殆ど出オチな悪ふざけ同然の仕掛けには笑わされましたが、この作品に限っては下手に捻りを入れるよりも、もうちょっとストレートな連作短編に仕上げても良かったんじゃなかろうか。
そんなわけで、いち小説としては★×4評価とはいえ、単純にミステリとして読むのであれば★×3です。
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