2012.10/18 [Thu]
望月守宮『無貌伝 ~探偵の証~』
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★★★☆☆
決まってるだろう。本当の世界だ。
私たちが住むこの世界は、真の世界によく似たまがい物に過ぎないのではないか。
そう思っている連中がたくさんいる。
裏切りの名探偵・御堂八雲により、首都は破壊しつくされた。望は救出した芹の手を取り、師匠の秋津のもとへと駆ける。しかし、待ち受けていたのは、秋津の失踪と、八雲の魔の手……! 陰謀蠢き、逆転と背信は繰り返され、矜持と狂気が交叉する逃避行の末、望は、ついに自らの手で最凶の名探偵と対峙することを決める。
「無貌伝」第5作。
まるで最終巻のようなタイトル配置に嫌な予感はしていましたが、まさかの次巻完結。確かに前作終盤から怒涛ともいえる展開を見せていましたが、よもやこれほど早くシリーズが終わってしまうとは。
ヒトデナシという特殊なギミックを用いたミステリとしても、サーガ的な空白部分を埋める物語としてもまだまだ描けるものはあると思うし、ここまでで構築されてきた世界観、既存のキャラクターだけでも充分発展の余地は残されているだけに、残念でなりません。
今巻では無貌の正体への言及に限らず、月が地球を親素としたヒトデナシである可能性、このセカイそのものがそもそもヒトデナシによって創られたのではないか?といった大風呂敷まで広げられており、物語全体がセカイ系の様相を呈してきます。
メインストーリーも望と芹の逃避行から始まり、純と健太を巻き込んでの追っ手とのバトル、魔縁である犬との共同戦線、打倒八雲と目まぐるしく動く動く。ミステリ要素を完全にスポイルして壮大な世界観の決着と主人公の物語を終わらせにいく流れは、どうしても西尾維新の「戯言シリーズ」を想起せざるを得ません。
デビュー作にしてシリーズ第1作『双児の子ら』のオビに西尾維新の推薦文が載せられていたことから考えても、これは無視できない符号でしょう。
ただし、あちらと違ってジャンルに与えた影響が殆どないというのがなあ。一応、メフィスト賞受賞作は『本格ミステリ・ディケイド300』でも取り上げられていましたが、『人形姫の産声』なんかはそのクオリティの高さとは裏腹に、年末ランキングでは完全にスルーされるという不遇っぷりですし。
著者自身、“引き”を作る楽しさに目覚めたというだけあって、今回のラストもかなり驚愕です。気持ちはわかる。わかるけど、なんでそっちにいっちゃうかなー、秋津さん!と、読んだ人誰もが心の中でそう訴えたハズ。
ここまで来たらミステリかどうかは関係なく楽しみではありますが、それでも最後の最後でガツンとくるような『人形姫』以上の特殊ルールミステリを期待しています。
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