2012.10/15 [Mon]
有栖川有栖『虹果て村の秘密』
![]() | 虹果て村の秘密 (講談社ノベルス) 有栖川 有栖 くまおり 純 講談社 2012-08-07 売り上げランキング : 457655 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
私は大人になりたてで、まだ何もできていないけれど、
子供たちに『ごめんね』とあやまるだけの大人にはならないようにしたい。
『ごめんね。でも、これはやったよ』と言えなくっちゃ、生きてきた値打ちがないもの。
と言うより、カッコ悪すぎるじゃない。ね?
将来、推理作家になる夢を持った少年・秀介と、刑事になりたくてしょうがない少女・優希。二人は、優希の母親で推理作家の二宮ミサトが持つ、虹果て村の別荘で夏休みを過ごすことに。村では高速道路の建設を巡り村人たちが争っていた。そんな中、密室殺人事件が発生! 少年たちは、手を取り合い犯人探しを始める……。
ミステリーランドからのノベルス落ちです。「かつて子供だったあなたと少年少女のための」と謳っておきながら、ミステリ作家たちが本気でトラウマを植え付けにくる作品が決して少なくない中、こうした健全たるジュブナイルミステリが上梓されている事実には心底ほっとします。
道路建設問題に揺れる田舎のとある村で密室殺人に遭遇した秀介と優希のひと夏の冒険。このノスタルジックな空気が堪りません。社会問題や道徳的なテーマも盛り込まれ、これぞ児童書かくあるべし。『神様ゲーム』のようなおどろおどろしいミステリの洗礼を受けさせるのもアリっちゃアリなのですが、メインターゲットを小学生に据えるのならやはりこうでなくちゃ。
本作においては密室殺人事件が発生するのですが、密室それ自体はさほど重要視されておらず、いわゆる“針と糸”を用いたトリックは秀介がごくごく早い段階で解いてしまいます。では、そこからどうなるのかというと、「犯人はなぜ密室を作ったのか?」が問題として立ちはだかってくるんですね。
自分の子供の頃を思い出すまでもなく、小学生くらいの年齢だとミステリの派手派手しい部分(=トリック)ばかりに目を奪われがちです。しかし、本書ではロジックとは何ぞや?というところから始まり、論理的に考えることの面白さを説くことに重点が置かれています。つまり、不可能を可能にしてしまう神の御業に魅せられてミステリに興味を抱いた子供たちに、さらにもう一段上のミステリ体験をして貰おうと意図して書かれているのです。
次代のミステリファンを育てる試みとして、これ以上に適した本があるでしょうか。そりゃあ、こんな本を小学生時分に読んでしまったらミステリ好きにならざるを得ませんって。
あとがきに載っている奥さんとのエピソードを読むと、秀介と優希の中に有栖川夫妻の姿が重なるようでもあり、より一層物語が味わい深くなること請け合いです。
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