2012.09/29 [Sat]
田南透『翼をください』
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★★☆☆☆
自分が美人でないことは知っていた。それに、昨今もてはやされるような巨乳女でもない。
しかし、自分が、いわゆる『男好きのする女』だということは十分心得ていた。
石元陽菜は愛らしい笑顔で人気の女子大生。彼女に好意を寄せる男たちは、気を惹くために重大な『秘密』をつい打ち明けてしまうが、陽菜の本性は、男をいいように操って己の利益をはかろうとする、極めて自己中心的なものだった。ここ最近執拗にかかってくる無言電話に、陽菜は苛立ち怯えていた。堪えかねた陽菜は相手を口汚く罵り、挙句に男たちから聞いた『秘密』をぶちまけて憂さを晴らすようになる。一方、電話の向こうの『ストーカー』は衝撃を受けていた。信頼して話した俺の『秘密』を、誰ともわからぬ相手に暴露するなんて……。裏切られた怒りはやがて殺意となり、『ストーカー』はゼミ旅行の目的地である絶海の孤島で陽菜を殺害することを決意する。
非常に評価に困る作品でした。読みものとして面白かったかと問われれば確実にイエスだし、登場人物たちの気持ち悪いほどの身勝手さに辟易しつつも、リーダビリティを損なうことなく最後まで読ませる力もあります。新人のデビュー作という点においては及第点以上の出来ではあるでしょう。
けれど、これは本格……なのか? ころころと切り替わる視点と場面転換、頻繁に挿入される空行処理、オチを含めたストーリーの作り方はまるでサスペンスドラマを観ているよう。三人称と一人称がごっちゃになったような文章にも違和感を覚えます。
ゼミ合宿に嵐の孤島というオーソドックスな舞台を用意していながら、実際には物語の大部分が孤島から掛け離れた本土で展開されるのも肩すかしでした。登場人物も無駄に多く、事件発生時の各人の行動がかなり複雑で呑み込み難いわりに、肝心の解決パートで殆ど意味を為していないなど、読み手の徒労感も半端ない。
おまけに、本題と関係のないところでとにかく人が死ぬので、とりあえず殺しておけば盛り上がるだろ?的な安直さが全体に滲んでいます。
極めつけはまたもや例のアレですよ。時流なのはわかるのですが、いくらなんでもサプライズ重視にこの手のネタを軽々しく扱いすぎです。その上、本作でもまた、トリックを実現させたいがためにかなり歪な状況が敷かれており、完全に某横溝正史ミステリ大賞受賞作と同じテツを踏んでいます。タイミング的に見てもこれはマズいんじゃなかろうか。
ラストのオチも、そうした特殊なシチュエーションが重なりすぎてもはやインパクトとして機能していません。
ストーカーが陽菜に執着するようになったきっかけには、人物設定を活かした膝を打つような理由付けがされているものの、それ以上に悪い要素が目立ちすぎるのが瑕です。
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