2012.09/27 [Thu]
仁木悦子『刺のある樹 仁木兄妹の事件簿』
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★★★★☆
かわいそうだとは思うわよ。だけどどうしようもないじゃないの。あたしおなかがすいちゃった
ミステリマニアの仁木雄太郎、悦子兄妹の下宿に、ひとりの紳士が相談に訪れた。このところ不可解な出来事に次々と見舞われ、命を狙われているのではないかと脅えているらしい。ふたりが調査に乗り出した矢先、紳士の妻が何者かに絞殺されるという事件が起き……。息もつかせぬ展開、二転三転する推理合戦の行方は?
「仁木兄妹の事件簿」第3作。
ポプラ文庫ピュアフルの「仁木兄妹」復刊、第4弾は第3長編『刺のある樹』です。前作『林の中の家』がかなり楽しめたこともあって続きを心待ちにしていましたが、期待を裏切らぬ出来の良さ。絶版になっている高品質なミステリを、こうして綺麗な装丁で、しかも安価に手に入れることができるとは。
本書もまた、巻末には仁木悦子本人による執筆秘話が収録されており、その創作スタイルについての話も興味深い。芸能関係の書籍となると問題ばかり起こしているイメージのポプラ社ですけれど、こと文庫事業に関しては本当に良い仕事します。
今回はいままで読んできたシリーズ作の中でも特に毒のある一冊です。仁木悦子の小説はユーモアに溢れて親しみやすいタッチである一方、人間の黒い部分をまざまざと見せつけられもします。犯人に微塵も反省の色がないだけでなく、真相が詳らかにされて初めてわかる人間関係、探偵役の雄太郎の仕掛ける罠、さらには被害者まで――どれもこれもが極めてドライ。特に『刺のある樹』というタイトルから受ける印象は、読み始める前と後でまったく変わってくるはずです。
それでいて読後感は悪いどころか、むしろ清々しく爽やかなのだから驚かされます。
「仁木兄妹もの」は残すところ長編1本と短編2冊ぶん相当のみ。初回配本の『私の大好きな探偵』は傑作選のような形で編まれていましたが、きちんと全作フォローしてくれますよね?
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