2012.09/22 [Sat]
似鳥鶏『午後からはワニ日和』
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★★★☆☆
でも、動物は自然の中が一番幸せだっていうのは人間の意見なんだよね。
現に、動物園で飼育される動物の寿命は野生のものよりはるかに長いし、
その理由の一つは、命の危険にさらされ続けるストレスがないことだと考えられている。
「イリエワニ一頭を頂戴しました。怪盗ソロモン」凶暴なクロコダイルをどうやって?続いて今度はミニブタが盗まれた。楓ヶ丘動物園の飼育員である僕(桃本)は解決に乗り出す。獣医の鴇先生や動物園のアイドル七森さん、ミステリ好きの変人・服部君など、動物よりもさらに個性豊かなメンバーが活躍する愉快な動物園ミステリ。
初、似鳥。年末のランキング本ではそこまで大きく取り上げられないものの、根強い支持者がいることも知っていたので以前から読んでみたい作家さんでした。
あらすじや設定からはいかにも一般ウケしそうな連作短編臭(ダジャレじゃなくて!)がしますが、意外や意外にがっつり本格。イリエワニの盗難からどう話を広げるのかといった心配も何のその、ハウダニットとホワイダニット、そこから始まる一連の「怪盗ソロモン」事件に隠された真相、悪意の大きさ、犯罪の規模、どれを取っても充分に長編を保たせられるだけのレベルでした。
伏線についてもかなり綿密に敷かれており、メインとなるルディ盗難事件にも納得でき得るだけの充分な解答が与えられています。与えられてはいるのですけど、肝心のトリック自体にそこまでの意外性がないのは残念といえば残念。いくら何でも、そのまんますぎる気がしなくもないです。
なぜルディでなければならなかったのか?といった、前段階の詰めの部分がすこぶる良くできていて期待値が上がっていただけに、ある意味では拍子抜けの感が強く、もう少し捻りを効かせた“答え”が見たかったというのが本音です。
とはいえ物語としては七森さんの悩みも含めてお仕事小説的な側面もあり、大変面白く読めました。思わずクスリと笑ってしまう注釈は、柳田理科雄の『空想科学読本』に通ずるものがありますね。
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