2012.09/16 [Sun]
彩坂美月『文化祭の夢に、おちる』
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★★★☆☆
これが最後。文化祭が終わったら、自分は青司から離れる。
三年に一度だけ行われる桐乃高校文化祭。その準備中、五名の生徒が吊り上げられていた巨大壁画の下敷きになってしまう。眠りから醒めた相原円が見たのは、いつもの通学路にいつもの校舎。見慣れた夏の光景のはずなのに、そこはどこかいびつな、誰もいない世界で……?
“青春<神隠し>小説”の謳い文句どおり、彩坂美月の最新作は文化祭前日にズレた世界に迷い込んでしまった少年少女の物語。初夏の地方都市を舞台にノスタルジー溢れる物語が展開されます。
なのですが、外部から隔離された閉鎖空間と、主人公たちを狙う狂気の“犯人”、事件を通してそれぞれの悩みからの脱却、といった設定はデビュー作『未成年儀式』とまったく同一。さすがに処女作ほどの不自然さは感じませが、4作目にして既刊のリメイクと見紛うような作品が出版されたことはちょっと宜しくないです。
後半になって唐突に始まる推理パートも相変わらず。本作に関してはサプライズに向けた伏線も効いていて、充分に読者を納得させられるだけの真相を用意できているのに、それが上手く本編に溶け込んでいない。終盤までまったくミステリを感じさせない体で進んでいたのに、いきなり本格さながらの謎解きに転調するからすごく不自然なんですよね。
この辺りは彩坂さんがデビュー作から一貫して抱えている問題点で、ミステリ推しにするのなら、初めの時点で「この作品はミステリですよ」オーラをそれなりに匂わせておかないと。読んでいる側は??になってしまいます。
個人的には彩坂さんの作風はすごく好みだし、文章も気に入っているので、ここらで弱点を克服してもうひと皮剥けてくれると嬉しいのですが。
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