2012.08/07 [Tue]
青柳碧人『浜村渚の計算ノート 3と1/2さつめ ふえるま島の最終定理』
![]() | 浜村渚の計算ノート 3と1/2さつめ ふえるま島の最終定理 (講談社文庫) 青柳 碧人 講談社 2012-07-13 売り上げランキング : 44378 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
論理的に考えることを、あなたたちは裏切ることができない。
これは、僕が尊敬してやまない、数学を愛する人たちの性格であり、生き方そのものです。
数学好きの人間だけが集まる奇妙なリゾートホテル“ホテル・ド・フェルマー”。一ヵ月前に起きた密室殺人事件に挑むことになった浜村渚と武藤刑事らはホテルに隠されたもう一つの謎に出会う。それは前オーナーの莫大な遺産のかかった不可思議な「なぞなぞ」だった。
「浜村渚」シリーズ 第4作。
現在、講談社文庫にて大ヒット中の本シリーズ。これまではすべて講談社Birthからの文庫化でしたが、初の長編となる本作はなんと文庫書き下ろし。そりゃあ正直、Birthなんて知る人ぞ知る超絶マニアックレーベルで普通に本屋に通っている程度じゃまず目につかないし、そもそもBirth自体が既に頓挫しちゃっているし――で、最初から文庫で出したのは賢明です。
サブタイトルからも察しがつくように、今巻のテーマはかの有名な「フェルマーの最終定理」。数学史上最難関といわれたこの問題を、フェルマーの人柄や当時の数学者たちのエピソードも交えて面白おかしく噛み砕いて説明してみせる手腕には、いつものことながら感心させられます。数学はただ単に数と記号と計算だけで成り立っているのではなくて、それにまつわる人間模様などの“外の部分”もひっくるめて魅力なのだというメッセージ性がドラマ部分にも掛かってきて、従来の短編モノ以上に物語に余韻を残しています。
なので、数学を題材にした1冊の小説としては十二分に満足いく出来ではあるのです。あるのですけれど、これがミステリ小説となると話はまた変わってきます。遺産の在り処を示した暗号の謎解きと作中における双子の使い方に関しては伏線の大胆さと仕掛けの面白さ、難易度も含めてかなりレベルが高いです。
それだけに今回、物語のメインである転落事件の解決に数学がまったく活用されていないのは、惜しいを通り越して残念でなりません。「浜村渚」シリーズの特筆すべきところは、数学的なアプローチによって事件が一瞬にして解決してしまう斬新さなのに、この話にはそれがない。普通のミステリで終わっているのです。そうじゃないだろう!
「ぬり絵をやめさせる」、「わりきれなかった男」、「『プラトン立体城』殺人事件」といった衝撃的で独創性のある本格ミステリを期待していたぶん、かなり強烈に肩すかしを食らった気分です。
長編にしたことで物語としての深みが出た反面、ミステリとしての強みが消されてしまった感は否めません。
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