2012.07/26 [Thu]
三津田信三『厭魅の如き憑くもの』
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★★★★★
そう今も、ちょうど先程から後ろで何かがこちらの様子を凝っと窺い、
あわよくば私に憑いて来ようとしているのが分かるように……
神々櫛村。谺呀治家と神櫛家、二つの旧家が微妙な関係で並び立ち、神隠しを始めとする無数の怪異に彩られた場所である。戦争からそう遠くない昭和の年、ある怪奇幻想作家がこの地を訪れてまもなく、最初の怪死事件が起こる。
「刀城言耶」シリーズ 第1作。
年末のミステリランキグでも常連の三津田信三による「刀城言耶」ものを初読みです。結構前から積んでいたのですが、シリーズの2作目『凶鳥の如き忌むもの』がすっ飛ばされてのシリーズ文庫化だったため、第2作の文庫が出るまでは待とうと思って寝かせていたのでした(一応、年内刊行予定だそうです)
本作最大の売りは民俗ホラーと本格ミステリのハイブリッド。作品全体を覆ういかにも不気味でおどろおどろしい空気感もさることながら、伏線をきちんと敷いた上で怪異の存在を込んでの推理を披露し、しかもそれに充分以上の説得力を伴っているのが驚くべきところです。ミステリとしての推理部分において、これが本当に上手く極まっています。
かと思えば、そうして構築された殆ど完璧に思える解答を、科学的根拠に基づいてさらに現実レベルまで引き落としてくる。しかも、です。本書におけるミステリ部分はむしろそこから本番で、それだけ手間を掛けて披露された“真相”すらも次の瞬間にはいとも簡単に棄却してしまうのです。
「おわりに」でしつこいくらいに明かされるタネについてはさすがに構造的にメタすぎて、物語の枠をはみ出して著者の自画自賛精神が滲み出てしまっているように見え、若干冷めてしまわないこともないのですが、それにしたって解決編における論理の畳み掛け、転がり続ける推理模様は圧巻という外ないでしょう。
もともと私自身、図書館で『稲生物怪録』の研究本を借りて読んでいるような中学時代を送っていたこともあって、妖怪や民俗学の分野にはそれなりに明るく、この手の世界観は大好物なこともありますが、兎にも角にも大変楽しめました。傑作、続きを読むのが楽しみです。
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