2009.08/14 [Fri]
清涼院流水『探偵儀式 THE NOVEL メフィスト症事件』
![]() | 探偵儀式 THE NOVEL メフィスト症事件 (角川コミックス・エース) 清涼院 流水 角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-07-25 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
坊主たちは、ルーシー・モノストーンって名前を知ってるか?
国民総探偵制度により、すべての国民が探偵化し、JDC(日本探偵倶楽部)も輝きを失った日本――。
最後のミステリ作家・N月R太郎の『百密室』という作品を読んだ者だけが、悪魔に取り憑かれたように人を殺し続ける“メフィスト症候群”を発症してしまう謎の事件が13年前から続いていた。
首つり探偵・伽藍堂天晴とBDC(ボランティア探偵倶楽部)のメンバーは、警視庁の笹山らの協力を得て事件の真相に迫るうちに、数十年前のカルト歌手ルーシー・モノストーンの影と、世界そのものを揺るがす秘密に辿りついてしまうのだった……!?
待望のJDCシリーズ新作!
――と、いうことでオーケーですか?コミックの方は完全に既存のJDCシリーズとは別物だけど、このノベライズでは『カーニバル』が史実を記した小説として登場するし、『彩紋家事件』とは逆に、遥か未来のJDC世界の物語ということで。
清涼院はJDCシリーズの続き“双子連続消去”は「この人とならやれる!という編集者と出会わない限りは書かない」と言っているだけに、こういうカタチで新作を拝めることになるとは……なんとも嬉しいサプライズです。
さて中身ですが、相変わらずぶっ飛んでいるというか――“24探偵”はまだセーフだとして、“Lの世界探偵”とか、“赤タン先生”に“Z解”とか、もはや自分でも寒いと思ってやってるでしょ、としか言いようのないくらいに酷い(誉め言葉
“(笑)”が出てきたときには思わず「“(笑)”キター!!」となっちゃいましたよ。当時、龍宮が“(笑)”を使ったときには本当に衝撃を受けましたからね。小説で!?みたいな。
メフィスト症事件に関する小ネタも面白かったです。第2回の流水はストレートで、第3回があからさまに「六とん」だったりして、第1回に「すべてがFになる」要素がないなと思っていたら、事件現場が“森”だったんですね。納得。
第12回はいかにも「本格」な――霧に包まれた館での100人殺しだったのか?とか第23回や第35回はどんな状況だったんだろう?とか、ついつい考えてしまいました。
いや、清涼院、本気でこのネタでシリーズを書いてみたらどうなんでしょう?『新本格もどき』みたいに。
そんなくだらない(これも誉め言葉)ネタのオンパレードで出来ているのですが、それでも読んでしまう、読ませてしまうのが流水クオリティなんですよね。
(以下、ネタバレ)
言ってしまえば「夢オチ」なのですが、一筋縄でいかないのは“JDCの世界”が確実に存在していることを我々読者は知っているわけだから、それが“伽藍堂天晴の作り出した世界”であるとは断言できないんですよね。じゃあ、あの世界の出来事=今までのシリーズは全て偽者だったのか?と問われれば、「はい」とは答え難い。そんなの空し過ぎるじゃないですか
(それでも清涼院ならやりかねないですけどw)
現実の伽藍堂天晴が生きる世界は限りなく“私たちの生きる世界”に近いです。むしろ、私たちが生きている世界といっても良いかもしれません。だからこそ、最後の「告白」が生きてくるわけですし。
もちろん、目覚めた伽藍堂天晴がいる世界もまた“JDCの世界”である可能性も否定できません。つまり“BDCの世界”のみが天晴の想像であった可能性ですね。しかしながら、清涼院流水=大塚英志という説を提示する以上、この可能性は限りなく低いと思われます。前述のとおり、目覚めた天晴の生きる世界が限りなく“私たちの生きる世界”に近いからこそ、生きるラストなわけで、そう考えると“JDCの世界”=“BDCの世界”の伽藍堂天晴が悪魔メフィスト=ルーシー・モノストーンに惑わされて迷い込んだのが目覚めた天晴の世界というのが合理的かな。すなわち、天晴は現実の引き戻されたように見えて、実は化かされて未だ夢の中、という解釈。
それもまた、夢オチか。
ふざけているようにみえて清涼院、こうやってさんざん読者を考えさせるんだから、やっぱり面白いなぁと思う今日この頃です。
あ、メフィスト症事件に関しては一応の解決が見られますが、「反則」とかいう以前にそれはアリなのか?という感じですね。まあ人外の悪魔の所業なので仕方がないですけど。
流水御大、“双子連続消去”はなるべく早めにお願いしますよ。
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