2012.06/23 [Sat]
ピーター・トレメイン『サクソンの司教冠』
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★★★☆☆
この街は、今教えて下さったこと以外にも、面白いものを秘めているのでしょうね。
さあ、しばらく私と一緒に歩きまわって、私に見せたいと思われるところへ、案内していただけません?
フィデルマはローマにいた。幸い、ウィトビアの事件を共に解決したエイダルフが加わっている、カンタベリー大司教指名者の一行と同行することができた。ところが、肝心の大司教指名者がローマで殺されてしまったのだ。犯人はどうやらアイルランド人修道士らしい。フィデルマとエイダルフは再び事件の調査にあたるのだが……。
「修道女フィデルマ」第2作。
7世紀のアイルランドを題材にしたミステリシリーズの2作目です。といっても、前作『死をもちて赦されん』に続いて今回もフィデルマちゃんは旅の途中で事件に遭遇するので、実質的にはロ-マが舞台だったりするのですけど。このあたりが、本シリーズを素直に第1作から刊行できなかった理由でもあるようです。
狭い区画内での聞き取り調査がメインだった前作とは異なり、本作はローマをあちらこちらと動き回る。物語の随所にサスペンスちっくなはらはらどきどき感とカタコンベ探索といった冒険要素も散りばめられており、それなりの分厚さがありながらもまったく退屈させません。
被害者を含め作中に実在した人物を数多く登場させ、史実では起こらなかった事件を“でっちあげている”にも関わらず、それを一種のSF的な処理で整合性を図ってしまうところも面白いです。あえて歴史に反した物語を見せることで、もしかするとこんな出来事があったのかもしれない、と悠久の時に想いを馳せてしまう読後感は歴史ミステリの醍醐味といえるでしょう。
また、普段から高慢な態度のフィデルマちゃんがズバズバと言いたい放題した後に、エイダルフが機嫌を損ねたと気付くや、すぐさまネコのようにご機嫌取りにすり寄ってくる様は読んでいてにやにやものです。近頃はツンデレキャラというと「べ、別にあんたのためなんかじゃ(ry」がテンプレのようになっていますが、言葉の厳密な意味においてのツンデレはこのフィデルマちゃんのような性格を言うんですよね。
次は第3作『幼き子らよ、我がもとへ』。既に第5作まで+短編集2冊が訳されているので、なるべく早めに読みたいところ。この後どう展開していくのかが楽しみです。
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