2012.06/13 [Wed]
田中芳樹『魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿』
![]() | 魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿 (講談社ノベルス) 田中 芳樹 講談社 2012-06-07 売り上げランキング : 52017 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
お忘れかもしれませんが、
私はまだあなたに『参事官室から出ていけえ!』と、いわれたことのない男なんですよ
「ここは地の涯 シベリア奥地♪」日本を恐怖に陥れた殺人鬼を大追跡! 「どんどん事を大きくして、君にも愉しませてあげるから」と警視庁の史上最強女王・薬師寺涼子警視は部下の泉田らを従え、シベリア出張。犯人が潜伏する秘密都市へと向かった。辿りついた先で見たのは、地獄としか思えぬ驚愕の光景と、世界を震撼させる兇悪な陰謀だった。人智を超えた敵の暴走を止めるべく、涼子は常識を超えた作戦で挑む!
「薬師寺涼子の怪奇事件簿」第9作。
5年ぶりのシリーズ最新刊。お馴染みのメンバーがいつもの如く大立ち回り。5年の空白期間をまったく感じさせない“変わらなさ”で、この変化のなさを安定と取るかマンネリと見るかで評価が分かれそうです。お涼ご一行大ピンチ→マリアンヌ&リュシエンヌ登場!の流れはさすがに食傷気味ではありますね。その巻のメインメンバーに最初から入っていないのであれば、何もムリヤリ出さなくても良いのになぁ。
今回はこのふたりの過去に関して新たに思わせぶりなセリフも登場してきますが、この刊行ペースと進展のしなさ具合で果たして著者側にきちんと回収していく気があるのかどうかは結構疑問だったりします。
3.11以後に書かれた作品ということもあって震災についての言及は当然のこと、お決まりの時事ネタも当然のように原発批判です。ただし、その内容に取り立てて真新しさがあるかといえばそうでもなく。わざわざエンタメ作品に盛り込んでキャラクターに語らせるほどのものでもないように感じました。
というか、お涼や泉田クンが第1作『魔天楼』の時点から年齢を重ねていない以上、これまでのエピソードもすべて震災以降の出来事になってしまうのですが、そのあたりの時間経過の捻じれについてはどう考えているのでしょう。敵キャラの明らかに人外ちっくな所業に対して何のフォローもしない雑さも含め、完全に批判>物語になっています。田中芳樹が原発批判をしたいがために執筆したようにしか思えないのが辛いです。
ところで、表紙イラストからもわかるように本作のテーマはサーベルタイガーです。既に妖怪・幻獣・怪奇の類ですらなくなって、実在した絶滅動物なのですけど、実吉先生がEMA(絶滅未確認動物)という呼称を提唱したように、絶滅種もものによっては一応UMAにカウントされるのでアリっちゃアリなのかしら。
しかしまぁシリーズ当初に期待していた方向性から遠ざかっているのは確かです。なんというか、つまらなくなる前に早めに終わらせてしまった方が良いような……。
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