2012.06/11 [Mon]
西尾維新『悲鳴伝』
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★★★☆☆
人類を滅ぼそうとする悪しき地球と戦う、ヒーローになってください
彼の名は空々空。どこにでもいない十三歳の少年。風変わりな少女、剣藤犬个が現れたとき、日常かもしれなかった彼の何かは終わりを告げた。ひどく壮大で、余轍もなく荒唐無稽で、しかし意外とよく聞く物語は、そんな終わりを合図に幕を開ける。人類を救うために巨悪に立ち向かう英雄は、果たして死ぬまで戦うことができるのか!?
西尾維新史上最長巨編の触れ込みで刊行された本作。いざ手に取ってみると『ヒトクイマジカル』とさほど変わらず、意外と薄くて拍子抜けしました。もっと京極、清涼院、まほろレベルの分厚さを期待していたのですが、これじゃあいわゆる“レンガ本”にはまだ足りないよ、西尾維新!
それにしても表紙のデザインが良い。これまで出ている西尾維新の著作の中では最も好きかもしれません。別段いちいちイラストレーターを付ける必要もないと思うのだけど、一部ではこのデザインが厨二っぽいと不評だったらしいです。うーん、この血が滲んだような赤文字が良いのになあ。
西尾維新曰く、本作は英雄譚だそうで、作中でも“ヒーロー”という言葉が頻繁に使われています。しかしながらそこは西尾維新なので勿論、ヒーローに対する既存のイメージをそのままトレースするのではなく、アンチヒーローとでも言うべき、かなり捻くれたヒーロー像が描かれます。
ただ、この部分が納得できない。ご存じのように私は特ヲタなので「仮面ライダー」は『クウガ』で平成ライダーが始まって以来、10年以上毎週観続けているし、「ウルトラシリーズ」の大ファンです。今年公開された映画『ウルトラマンサーガ』で提示されたヒーロー論には大変感銘を受けました。それだけに“ヒーロー”の定義やその在り方については拘りがあるつもりです。
そして、そんな諸々の作品群を踏まえて本作を見た場合、空々をヒーローだとか英雄だとか呼ぶことにどうしても抵抗を覚えます。つまり何が言いたいのかというと、いくら犬个の心情を慮ったという事情があり、直接的に手を出してはいないといっても、平気で幼児を虐殺するような輩はどんなにまかり間違ってもヒーロー足り得ない。心に愛がなければスーパーヒーローじゃないんですよ。
とはいえ、空々には空々なりの正義があって、それに基づいて行動していたのも確かです。空々の正義はただひとつ、「犬个を守りたい」なのです。その信条からしてみれば、幼児虐殺もまた必要なことではありました。
一般論で言う正義と各々の持つ正義が必ずしも同じものとは限らない。正義を貫く者がヒーローと呼ばれるのであれば、空々も見方によってはヒーローなのではないか――このあたりのヒーロー像の多様性は『めだかボックス』で阿久根先輩に『仮面ライダー龍騎』が好き、と述べさせた西尾維新らしくもあります。
まぁでも、結局のところ空々は気付くのが遅すぎたわけで。彼に対して「どうしてそんなことが、お前が悲しんじゃいけない理由になるんだよ」と諭してあげられる人間がもし身の回りにいたのなら、空々の運命も変わっていたのかもしれません。
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