2012.05/30 [Wed]
麻耶雄嵩『新装版 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』
![]() | 新装版 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社ノベルス) 麻耶 雄嵩 講談社 2012-03-07 売り上げランキング : 371178 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★★☆
京都近郊に建つヨーロッパの古城のような館・蒼鴉城を「私」が訪れた時、既に惨劇は始まっていた。首なし死体、不可解な密室、奇妙な見立て殺人、そして蘇える死者……。「謎」だらけの連続殺人事件を解決すべく登場したのは銘探偵メルカトル鮎――。彼が導き出した凄絶な結末とは!?
「メルカトル鮎」第1作。
言わずと知れた麻耶雄嵩のデビュー作。麻耶雄嵩は『貴族探偵』しか読んだことがなかったものの、本格を語る上で外せない一冊であり、講談社ノベルスから新装版が出たということなのでこの機会に購入。いわゆる名作・傑作とされている作品群は、こうやって新装版を出してくれると手に取りやすくて助かります。定期的にやっておくんなんし、文三。
で、肝心の内容はというと、いかにも本格ちっくなガジェットを用いて読者の期待を高めておいて、最後の最後で壮絶な裏切りをぶちかまします。そうはいっても、本作よりも後の時代に書かれた捻くれたミステリ群に馴れ親しんでいるせいか、前評判ほどの衝撃は受けませんでした。
また、この作品では、作中で探偵が辿り着いた結論が絶対的に正しい答えだとは限らない、という例の問題をいちミステリの枠内で表現したところが最大意義にも関わらず、その部分が明らかにアンフェアなのも評価に分かれるところです。アガサ・クリスティ『アクロイド殺し』や西尾維新『トリプルプレイ助悪郎』のようにアンフェア的な手法を、裏技を使って強引にフェアにしてしまうのであればまだわかるのですが、本作の場合はどうにも公平さに欠けます。
よくよく突き詰めてみると名探偵の答えが絶対であると断言できないように、最終的にここで示された答えや提示されているヒントすらもまた間違ったものである可能性が否定できないので、そもそもフェア/アンフェアを論じること自体がこの作品の前では無意味との見方も可能なんですよね。そうなるとむしろこのアンフェアさこそが著者の表現したかったものなのかなぁ――と、延々と悩んだ上で敢えて述べると、狭量な私には手放しで許容できるほどの心の広さはちょっとなかったです。
まぁ、木更津による密室トリック解説に心底驚いてしまったイロモノトリック大好き人間の負け惜しみと捉えて貰っても、全然構わないんですけどね!
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