2012.05/12 [Sat]
柳広司『パラダイス・ロスト』
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★★★☆☆
だが、スフィンクスの謎を解いたオイディプスの運命を挙げるまでもなく、
謎を解くことは本来それだけで完結するものではない。解かれた謎は、謎を解いた者に責任を突き付ける。
大日本帝国陸軍内に極秘裏に設立された、スパイ養成学校“D機関”。「死ぬな。殺すな。とらわれるな」―軍隊組織を真っ向から否定する戒律を持つこの機関をたった一人で作り上げた結城中佐の正体を暴こうとする男が現れた。英国タイムズ紙極東特派員アーロン・プライス。だが“魔王”結城は、まるで幽霊のように、一切足跡を残さない。ある日プライスは、ふとした発見から結城の意外な生い立ちを知ることとなる――。
「ジョーカー・ゲーム」第3作。
言わずと知れた柳広司によるスパイ・ミステリの最新作です。一般への売れ行きは勿論のこと、前作『ダブル・ジョーカー』は2010年本ミス第7位に選ばれるなど、ミステリ業界からも注目度の高い本シリーズ。ただ、個人的には過大評価しすぎているように思わなくもないです。
今巻は収録作品の中に前後編ものが1本あるので、実質的には短編3作+中編1作の4話構成。毎度お馴染みD機関のスパイたちが策に策を重ねて敵の罠を掻い潜り、卒なく任務をこなしていきます。
ここまで付き合ってきた読者は当然、スパイたちが必ずや勝利を収めるための一手を打っているだろうことは理解しているため、ミステリとしてはその“手段”の部分でどれだけのサプライズを演出してみせるのかが読ませどころになってくる。
で、その点に注目して述べるとすれば、本作においてはそれほど目を見張るような仕掛けは施されていません。「追跡」のようなひっくり返し方は予定調和の想像どおりであって、もはやひっくり返しになっていないのです。結果がわかっている以上、過程に重きを置くべきなのに、それがない。
「暗号名ケルベロス」で展開される推理もかなりムリくりなものがあり、そのあたりの本格としての弱さも柳さんらしいといえば柳さんらしいです。
スパイたちの人間味や人情が滲んでくるのはこれまでになかった趣向で、物語性を高めるのにひと役もふた役も買っていました。読後感だけで言うと「暗号名ケルベロス」の結末はこれまでのシリーズ作の中では最も良かったですね。
とはいえ、エンタメ小説としてならともかく、今回も本ミス20位圏内に入っているようなら本気で投票者の本格観を疑います。
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