2012.05/06 [Sun]
マシュー・ストーヴァー 『スター・ウォーズ 破砕点(上)』
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★★★★☆
クローン大戦がなんだ? そんなもの、だれが気にする?
ハルウン・コルの者はだれひとり、
コルサントを支配してるひと握りのくそったれのことなんか、なんとも思っちゃいるもんか。
おれたちが分離主義者を殺すのは、やつらがバロワイに武器や物資を与えるからだ。
クローン大戦の戦火は銀河中に広がり、多くの惑星で内戦を誘発した。ジェダイ評議会の長老、メイス・ウィンドゥの故郷ハルウン・コルもそのひとつだ。独立星系連合に与した惑星政府に対抗するゲリラ組織を支援すべく、メイスは弟子のデパ・ビラバを送るが、彼女は消息を絶つ。やがてメイスのもとに、デパが関与したという一般市民虐殺の映像が届く。
「クローン大戦ノベル」第1作。
表紙イラストからもわかるようにジェダイ・マスターのメイス・ウィンドゥが主役のスピンオフ小説です。日本のスピンオフ業界でスカイウォーカー一族と関係のないキャラクターにスポットを当てた作品が訳されることは本当に稀なケースですし、殆ど死に体同然という現在のSW小説を取り巻く状況を鑑みるに、今後もまずもってあり得ない。
新三部作の公開に沸き立っていたあの当時だからこそ通った企画であり、いまになって振り返ると「クローン大戦ノベル」でバリス・オフィーの活躍篇である『Medstar』がスルーされたのは、やはり勿体なかった。
本作は『EP2』の半年後の物語です。共和国の全ジェダイの中でも、ヨーダに次ぐNo.2の地位にあるマスター・ウィンドゥがかつての弟子で自身もまた評議会メンバーだったデパ・ビラバの行方を追って故郷の惑星を訪れます。
そこで待っていたのは終わることない内乱と虐殺、目の前で喋っている最中の人間の腕が吹き飛ばされ、子供は大人を殺し、その子供をまた別の大人が殺す憎しみと暴力に溢れた世界。あのメイスですらも、滞在1週間で精神的にかなり追い詰められてしまうほどの現実。
とにかく暗い、重い、陰惨、鬱々。こういった突っ込んだ描写ができるところがSW小説の素晴らしさではあるとはいえ、よくこれを日本で出せたよなぁ、といった感じです。世間一般に知られている「SW」像とはあまりにも掛け離れています。
コルサントからでは見えない実情と、ジェダイの矜持とアイデンティティすらも揺さ振ってくる。メイスが現地の子供に「くそったれジェダイ」と罵られて衝撃を受けるなど、上巻読了のこの時点で既に、これまで読んだどのスピンオフよりも考えさせられる部分が多く、読み応えのある物語でした。
私はこれまでマスター・ウィンドゥに対してぼんくらで堅物、保守的なイメージを抱いていましたが、実は、メイスは常にジェダイであることに迷い、自分の過去の行動について他にもっとやりようがあったのではないかと悔やみ続けているという姿が本作では描かれています。
また、戦闘好きで激情家、怒りに左右されやすいなど、根っこの部分がアナキンとかなり似ていることもわかります。ただし、その感情を理性で抑え込めるか込めないかが両者の大きな違いであるわけで。だからこそ、任務をゲーム感覚で捉えるお調子者のアニーに厳しく当たっているのかもしれませんね。
長い絶望を抜けてとうとうデパと再会したところで上巻は終わり。近いうちに下巻も読みます。
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