2012.05/03 [Thu]
愛川晶『ヘルたん』
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★★★★☆
ヘルパーやりながら探偵も開業して、両方で稼ぐ。悪くないわ。
元引きこもりの神原淳は、浅草に住む成瀬老人宅の居候となる。そこで出会ったヘルパーは、淳が高校時代に恋していた不良先輩・中本葉月。成瀬は実は伝説の名探偵で、淳はヘルパー講習の傍ら、探偵見習いも務めるはめに……。
ヘルパー+探偵で「ヘルたん」。こんなポップなタイトルでライトな装丁をしていますが、本書は高齢化社会となった現代における介護業の抱える問題の数々を提起しつつ、謎解きミステリもしっかりとこなすという社会派本格です。
かつての名探偵にも認知症の症状が顕れはじめ、しかし名探偵ゆえにそれを隠し通す。いま現在、自分がどんな事件に携わっているのかも忘れていく中、それでも名探偵としての能力を総動員して名探偵であり続ける。しかし、だからこそ誰にも覚られることなくどんどん症状は悪化していく。一寸先は闇ともいうべき状況にあって名探偵はどこまで名探偵でいられるのか、成瀬の独白には名探偵像の極限を見せられた気さえします。
とはいえ、本作で前線に立って謎解きを行うのは主人公の淳。成瀬はあくまでも相談役です。全3編の連作短編集でありながら、日常の謎だったり、過去の傷害事件の再捜査だったりと内容はバラエティに富んでいます。
特に良かったのが「ミラー・ツイン」で、この章は解決パートがとにかくスマート。既に提示されている伏線から論理的に謎解きを進めるのはミステリならば当然のことなのですが、ここにヘルパー用語を当て嵌めていくことで、さながら数学の証明問題における定理の引用のようにびしっと極まってくる。これはかなり好きなタイプです。
厳密にはルールミステリではないのですけど、その手の嗜好の人には結構、合うんじゃないでしょうか。
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