2012.04/23 [Mon]
靖子靖史『そよかぜキャットナップ』
![]() | そよかぜキャットナップ (講談社BOX) 靖子 靖史 TNSK 講談社 2012-04-03 売り上げランキング : 637516 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
★★★☆☆
しかし、そうは許さぬ諸行無常。世の中は巡り彼女も変わる。星も巡って、しがらみ増える。
行方不明の愛猫マコトをめぐって、ひょんな流れで結成された「里山田園愛好会そよかぜ」。長谷川弘忠、小野啓太、玉井香織、三人のメンバーたちは、真夏の郷里で、ちいさな事件の「深み」に迷いこんでゆく――。
第10回講談社BOX新人賞Talents受賞作
レーベル立ち上げ当初は講談社BOXクソ高い!などと文句を言っていたのに、書店に行くとわが愛する講談社ノベルスの隣に置いてあるものだからついつい新刊をチェックしてしまいます。それでこの表紙ですよ。空の青! ワンピースの白! 麦わら帽子の茶色! 夏好きとしてこれを読まずに何を読めと? ジャケ買い余裕でした。
内容も期待を裏切らない夏らしさに溢れており、虫獲り、お祭り、セミの声。これぞ田舎の夏といった要素がてんこ盛りで、弘忠や啓太の一人称で綴られる地の文もくすりと笑わせてくれる楽しさがありました。
キャラクター性とユーモアのある文体が両立されていて、結構時流な作品なんじゃないでしょうか。
物語の軸となるのは黒猫マコトの失踪事件で、“ゆるミス”と銘打たれているとおりジャンル的には日常の謎に当たるのですが、内容云々はとりあえず措いといて実は本作、ちょっとミステリとしては如何とも判断し難いのです。
というのも、オビに載せられている文芸評論家のコメントがあまりにもネタバレで、その文句を一度目にしてしまうとマコト失踪の真相と作品におけるキャラクター配置、果たすべき役割から話運びまですべてが見え透いた状態になってしまうという、およそミステリとしてはあり得ない売り方が為されています。
いやさぁ、書評家のコメントが購入意欲を沸かせることは確かにあるかもしれない。でも、そこで作品のテーマを語るのはおかしいでしょうよ、と。私はこの『そよかぜキャットナップ』が面白かったですし、靖子さんが次の作品を出したらたぶん買います。だからこそ、もっと自然な形でこの作品を味わいたかった。
叙述モノのミステリに“必ず二度読みたくなる!”とか“ラスト一行の衝撃”とか書くと売れるのわかります。けど、それってミステリの楽しさを殺すことになっていると思うんです。サプライズは不意打ちだからこそ効果を発揮するわけで、最初から予告されていたのでは意味がありません。
商売と作品の質、どちらが重要なのかは一概に答えは出せないでしょう。最低限のモラルというか、踏み越えるべきでない一線を平気で無視するような売り出し方はやめてほしい。講談社BOX編集部は猛省すべし。
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