2012.04/18 [Wed]
青柳碧人『判決はCMのあとで ストロベリー・マーキュリー殺人事件』
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★★★☆☆
私、謝らないですからね。謝っちゃったら、法律上、こっちの非を認めることになりますから
裁判がテレビ中継されるようになった日本。裁判中継は庶民のエンタテインメントとして定着し、中継から誕生した裁判アイドルグループ“CSB法廷8”は今や、押しも押されもせぬ国民的アイドルとなっていた。そんな中、人気ビジュアル系バンド“ストロベリー・マーキュリー”のメンバー間で起こった殺人事件の裁判が、いよいよ始まろうとしていた。テレビ中継はもちろん、ゲストとしてCSBも参加する、全国民大注目の裁判に、裁判員として参加することになった人材派遣会社の社員・生野悠太だったが――。
『浜村渚の事件ノート』の青柳碧人によるノンシリーズもののミステリです。本作では裁判がテレビ番組のバラエティ番組と化した世界を描いていて、裁判員がスポンサーの意向で仮装したり、奇特なキャラ付けの弁護士が「本日の蜂室チェック」と称して視聴者に公判のキーポイントを紹介したり、挙句の果てには被害者遺族が自作の曲を披露したり、アイドルの新曲発表の場に使われる。設定も設定なら青柳碧人特有の悪ノリ感も暴走に拍車を掛け、殆ど酷いとしか言いようのないレベルに達しています。
その悪ふざけにもほどがあるストーリーの中に、現状の裁判員制度への痛烈な批判と風刺を盛り込みつつ、それでも最終的に司法の素晴らしさについて説く。これで本作、なかなか社会派な内容なのです。
角川のミステリは特に若者向けを意識して書かれているきらいがありますが、そういった読者層に対してムリのない形で問題提起を行うという観点では一定の成功を収めていると思います。
長編を1本引っ張るだけの謎かと問われると求心力にはやや乏しいし、裁判のテレビ番組化設定が謎解き部分に有機的に作用しているわけでもないため、伏線のさり気なさ等に見るべき点はあれど、本格として物足りなくはあります。そこはまぁ主題が主題なことを考えると仕方ないのかな。
本格書きのセンスはある作家さんなので、『浜村渚』ばりにトリッキーな謎解きミステリも期待したいところです。
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