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300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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スティーグ・ラーソン『ミレニアム 1 ドラゴン・タトゥーの女(上)(下)』

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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★★★☆☆
月刊誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエルは、大物実業家の違法行為を暴く記事を発表した。だが名誉毀損で有罪になり、彼は『ミレニアム』から離れた。そんな折り、大企業グループの前会長ヘンリックから依頼を受ける。およそ40年前、彼の一族が住む孤島で兄の孫娘ハリエットが失踪した事件を調査してほしいというのだ。解決すれば、大物実業家を破滅させる証拠を渡すという。ミカエルは受諾し、困難な調査を開始する。


「ミレニアム」第1作。
 普段ならば上下巻分けて感想を載せるところを、未レビューの作品が溜まっているので今回はまとめて。スウェーデンで最も面白いミステリ、全世界で6000万部も売れているそうで、日本でも大ヒットを飛ばしたのが記憶に新しい『ミレニアム』。今回、文庫化されたのを機に読んでみました。
 「スター・ウォーズ ニュー・ジェダイ・オーダー」後半戦ばりの3ページにも渡る膨大な登場人物リストに一瞬気が滅入るものの、いざ読み始めてみると人間関係は存外に把握しやすく、巻頭の家系図を見れば誰と誰がどういった間柄なのか一発でわかるため、それほどの苦労はありませんでした。わざわざ別紙で登場人物&島内見取り図を投げ込んでくれたハヤカワ文庫の配慮にも感謝です。

 物語は過去に起きたハリエット失踪事件の謎を追うジャーナリストのミカエル・ブルムクヴィストと、社会生活不適合者にして凄腕調査員のリスベット・サランデルの私生活を描くパートの2本筋で始まり、下巻に入ってミカエルがリスベットに協力を要請するカタチで1本に統合されていきます。
 孤島に密室、不可能状況。見取り図、家系図、残された暗号……と本格魂を煽るガジェット満載で期待に胸が膨らみますが、肝心のハリエット失踪事件の真相があまりにも呆気なくて拍子抜けしました。ミステリとしてのクライマックスはせいぜい暗号の絵解き部分まで。暗号の意味がわかると同時に伏線が回収され、それらが闇に葬られていた連続殺人事件を炙り出す場面には本当に興奮したのですけど、終わってみると推理もへったくれもないありがちなサスペンスに……。
 というか事件の全容が明らかになった後でさらに100ページ以上残っていることからもわかるように、本作はミステリではないんですよね。ミカエルのジャーナリストとしての生き方を描いた作品です。だから重要なのはどうやってヴェンネルストレムの鼻を明かすかであり、絶対絶命存続の危機に晒されている『ミレニアム』編集部が如何にして復活を果たすのか。それこそが最大の見せ場でハリエット云々は過程にすぎません。なんという思わせぶり! それならそうと早く言ってほしかった。
 ハリエット事件をミレニアムVSヴェンネルストレムでサンドイッチする入れ子構造が、両者の内容が有機的に結びついていないことで若干アンバランスになっていたのと、いくら憎むべき敵方を潰すためとはいえリスベットの違法な捏造行為をスルーするのはジャーナリストとしてどうなのかという2点ははっきり消化不良でした。

 章が変わる毎に客観的事実が附記されていることからもわかる通り、本作はスウェーデンの社会問題――とりわけ性犯罪率の高さを世に訴える意図で書かれた社会派小説でもあります。ハリエット失踪事件やヴァンゲル家の秘密、リスベットを取り巻く環境も根底にあるのはスウェーデン社会のそういった負の部分。
 しかしながら作中でのミカエルの振る舞いを見ていると、それもまあ致し方なしなのでは、と思わずにいられなかったりもします。愛人が原因で妻と別れたのに「だってこれが俺だし。理解できないのなら仕方ない」的に心境を入れ替えもしないし、「あなたのこと気に入ったからとりあえず寝る?」といった具合に貞操観念が有り得ないほどゆるゆる。今作だけでもミカエルは3人の女性と関係を持っていて、それが特段おかしなこととして描かれてはいません。リスベットもリスベットで、さんざんセックスしておいていまさら彼のことが好きかもしれないとか乙女モードで言い出すのですが、順番がおかしいだろと。りぼんマスコットコミックスが好きな私にはちょっと付いていけない感覚ですね。

 スピード感を演出するためなのか、終盤「何時何分、~した。○○だった。××だった。」とひたすら箇条書きちっくな文章が何文も続くところはかなりきつかったです。著者がジャーナリスト故、元々の文章が堅いのか訳文が悪いのかは知らないけれど、台本のト書きじゃあるまいしもうちょっとナチュラルにできなかったものでしょうか。
 第2部以降も引き続き読む予定ではいますが、持て囃されるほどの内容かと訊かれれば正直、凡作だと思う。


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Comment

ed 

>>愛人が原因で妻と別れたのに「だってこれが俺だし。理解できないのなら仕方ない」的に心境を入れ替えもしないし、「あなたのこと気に入ったからとりあえず寝る?」といった具合に貞操観念が有り得ないほどゆるゆる。

これは、別に悪いことではないのではないですか?
貞操観念というのはそもそも、ろくに避妊の知識もない時代のカトリックの人達が作り上げたもので、避妊具の発達した現代においては緩かろうと後は当人達の自由のように思います。
世界にはいろんな考え方があり、同じ日本の中だけでもいろいろな考え方があります。自分の考え方だけでスウェーデン文化を批判するのはおかしいのではないか、と思いました。

貞操観念云々という考え方を突き詰めていけば、作中で繰り返し使われる、「売女」という表現になるのではないかと。
少々言い過ぎかもしれませんが。
  • posted by  
  • URL 
  • 2011.12/08 07:06分 
  • [Edit]
  • [Res]

 

仰るようにそれが悪いことではないですし、当人の自由というのもその通りだと思います。
どちらかというとその在り方を受け止めた上で、著者の訴える「スウェーデンにおける性犯罪率の高さ」もわからなくもない話だと書いたつもりだったのですが、誤解を招いてしまったようですみませんでした。

キャラクターの言動が理解できないのは確かですけれど、決して文化批判の意図はないです。
  • posted by はろーすみす 
  • URL 
  • 2011.12/08 23:36分 
  • [Edit]
  • [Res]

NoTitle 

こんにちは^^
とても参考になりました。
  • posted by kousu205 
  • URL 
  • 2012.06/15 14:37分 
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  • [Res]

 

kousu205さん、コメントありがとうございます。
『ミレニアム』は読んでいてミステリという感じがあまりしなかったです。

そして、続きを読むと言っておきながら放置しっぱなしで申し訳ない……。
  • posted by はろーすみす 
  • URL 
  • 2012.06/16 18:25分 
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プロフィール

はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

当ブログはリンクフリーです。
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