2011.07/10 [Sun]
東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』
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★★★★☆
お許しください、お嬢様。わたくしチャンチャラおかしくて横っ腹が痛うございます
ミステリー界に新たなヒーロー誕生!? それは、国立署の新米刑事にして世界的な企業グループの総帥の娘という宝生麗子、ではなくてその家の執事影山なのだ! 本当はプロの探偵か野球選手になりたかったという影山は、謎を解明しない麗子に時に容赦ない暴言を吐きながら、事件の核心に迫っていく。「失礼ながら、お嬢様の目は節穴でございますか?」
「謎解きはディナーのあとで」第1作。
言わずと知れた2011年本屋大賞受賞作です。これ、ね。Amazonやブクログのレビューを見るとめちゃくちゃ低評価なんですよ。とにかくボロクソに言われていて「本屋大賞終わった」「子供向けレベル」「軽い、薄い」「どこが本格なの?」「ミステリとしては物足りない。ミステリを読んだことがない初心者向け」などなど。でも、これはむしろ逆だろう。本格ミステリをある程度読み込んでいないと良さがわからない。この作品は“本格”の何たるかをよく理解していない層が読んでもまるで面白くないと思います。
たとえば「殺しのワインはいかがでしょう」や「二股にはお気をつけください」はありがちでしょぼいトリックが用いられてますが、ぶっちゃけそんなものはどうでも良くて。犯人の特定こそが本書のミステリとしての要です。
たかだか40ページ(解決編を除けばさらに短く30ページ)の中にこれでもかというほどもりもりヒントが詰め込まれ、謎解き場面になって初めて張られていた伏線量の多さに気付かされます。第一章からして既に感嘆の出来。おまけに室内で靴を履いていた理由の「あるある」度にテンションも上がります。読みやすさも相まってさくさく進んでいくのも短編の強みですね。
容疑者を断定するまでの手際は鮮やかなもので、既に明らかになっている情報から犯人候補をどんどん絞り込んでいく。影山のセリフにもあるとおりこれは「理詰めで解ける問題」なのです。
推理の過程、論理の道程を純粋に楽しむのが本格の妙でしょう。一般読者層は本格ミステリというと発想一発勝負の物理トリックのイメージが強く、そうでなければ人間ドラマ重視、飛び道具的に物語全体をひっくり返してくる叙述系を持て囃す傾向にあるようです。うーむ。
東野圭吾や米澤穂信が支持されているし、ここらで本格が本屋大賞をとっていっきにミステリブームくるかな、と楽観的に見ていたのですが、結局は見てのとおりのぼろ貶し。一般読者との溝の深さを痛感するハメになりました。
東川さんには悪いけれど、梓崎優みたいな有望な新人が下手に受賞しなくて本当に良かったと思う。オーソドックスなフーダニットでこれだもの。ホワイダニットとか絶対に理解を得られない。
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あしあとから来ました。
「謎解きはディナーのあとで」の正当な評価を簡潔に書かれてあることに大変共感し、いいのかなと思いつつコメントしています。
かなり読書量のあるかたでも、この本のミステリとしての価値を侮っている方があまりに多いと私も思っておりました。かといって本当・本物のミステリ好きは、ミステリが好きすぎて、温かい目で売れている作品を正当に評価できないという矛盾があります。
筋金入りのミステリ好きからも一般読者からも低評価の本がなぜこんなに売れているのか、不思議な状態ですね。
ミステリブームがくるといいですが、難しそうですね。