2011.06/20 [Mon]
米澤穂信『折れた竜骨』
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★★★★☆
何も見落とさなければ真実は見出せる。理性と論理は魔術をも打ち破る。必ず。
ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、“走狗”候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、沈められた封印の鐘、鍵のかかった塔上の牢から忽然と消えた不死の青年――そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ?魔術や呪いが跋扈する世界の中で、「推理」の力は果たして真相に辿り着くことができるのか?
年末のランキング本を見ているとどうにも米澤穂信が過大評価されている気がしてならなかったのですが、本作は評判に違わぬ面白さ。既読のよねぽ作品の中では最も良かったといっていいくらい。
12世紀のヨーロッパを舞台としたファンタジーとしても読み応え抜群な上、本格ミステリとしても相当高水準です。魔法や呪い、戦禍といったファンタジーな世界をミステリ部分にがっちりと落とし込み、それらの特殊設定を踏まえて論理的推理が展開される。本作の読みどころはなんといってもそのロジックです。消去法によって容疑者をどんどん減らしていく過程はとてもわかりやすく、またよく出来ています。特に、目撃者の存在が逆説的にとある人物が容疑者でないことを示している、という論証はまさにファンタジーの設定があったからこそ成立するもの。魔法までもを巧みに組み込んだ推理には大変唸らされました。
物語自体も領主殺害がソロンの危機の一環として位置付けられているため、その後にある呪われたデーン人との戦闘とも有機的に結びついていて、それらのファンタジー展開が決して本筋から外れた話には見えません。むしろそういったシーンですらここぞとばかりに伏線を仕込んでくるから抜かりがないです。結末も情緒ある仕上がりで小説としての完成度も高い。
獅子宮さんの『天命龍騎』に求めていたもののすべてがここにあったかという感じでした。
あとがきを読む限り、本作は主な読者層に配慮してハイファンタジーから歴史ものファンタジーにしたようですが、今回で味を占めてぜひとも異世界を舞台に古野まほろの『探偵小説のためのインヴェンション「金剋木」』ばりにガチガチに固めたルールものを書いて貰いたいですね。
米澤穂信は日常の謎だけじゃあ勿体ない。この路線でいってくれるなら一生付いていきます。
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NoTitle
この作家の作品をかたっぱしから読んでましたが、
3回も繰り返して読んだのは、これだけです。
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