2010.01/18 [Mon]
朱川湊人『ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント』
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★★★★☆
USAの連中は、やたら独自で改造してパワード何とかって名前を付けたがるけど、どれも今イチなんだよなぁ
CREW GUYS研修隊員・ハルザキ カナタ――夢は、ウルトラマンだろうが何だろうが、すべての異星人を地球から追い出すこと。かつて謎の異星人の円盤による攻撃で父を失った過去を持つカナタは、頻出する怪獣・異星人による侵略行為と絶え間なく戦う防衛チーム「CREW GUYS」に研修隊員として配属される。その初日、宇宙から飛来した謎の物体とウルトラマンメビウスとの戦いを眼前で目撃した彼は、メビウスの正体がGUYSのヒビノ ミライ隊員であることを知る。地球防衛の最前線にして要である筈の組織内に異星人が紛れているという事実に憤るカナタであったが、どうやらGUYSのクルーは皆、そのことを承知しているようで――。
「ひとりの楽園」「無敵のママ」「怪獣使いの遺産」――テレビシリーズ『ウルトラマンメビウス』で3本の脚本を担当をした朱川湊人がそれらの作品をベースにさらに2編の完全オリジナルパートを加え、新たに“別の地平線のウルトラマンメビウス”として書き起こした作品。そして何故かミステリ季刊誌である『ジャーロ』に連載されていたという謎作品。
もうね、朱川さん。馬鹿じゃないの?(最大限の褒め言葉)
どんだけ「ウルトラ」シリーズが好きなんだよwwと。『ウルトラQ』から『80』まで、とにかく使えるものは使ってくる。植物もどき怪獣ゾラとかマイナーにもほどがあるし、メゾン・ド・リトラリアにジュラン・ジュラン江戸川店、イデ隊員、“サカタ先生”、万城目淳と出るわ出るわ。エピソードではラゴンと子守唄の話(これ、『ウルトラマン』でも使われたネタですよね)、さらに同じく円谷特撮のグリッドマンネタで護衛艦にキンググリッド、サンダーグリッドという名前が使われたり、もうやりたい放題。
中でもいちばん笑ったのがラビットパンダ。過去のチームの車両をレストアして――と聞いた瞬間、まさかとは思ったのですが、本当に出ちゃったよ、ラビットパンダ!! そりゃあ子供心ながらにも酷いデザインだと思ったもの、アレは。
また『メビウス』放映当時、雑誌等では“ジャミラは単なる宇宙怪獣としか記録されていない”という情報が掲載され、物議を醸しましたが、実際の本編ではそれらの“隠蔽”或いは“情報開示の制限”を生かした作劇が行われることはありませんでした。しかしながら本書の「怪獣使いの遺産」の章では、かつて地球人が無抵抗の異星人を虐殺したとされるメイツ星人の事件と絡んで『ドキュメント・フォビドゥン』として触れられています(ここでジャミラ事件の際、科特隊本部から派遣されたアラン隊員が真実の告発のためにジャーナリストに転向していたことも明かされます)
トリヤマ補佐官が昔、ギエロン星獣戦の地上部隊にいて、そのときの仲間の多くが今もギエロン星獣の吐いた放射能の後遺症に苦しめられている、などのセリフもあり、そういった諸々の記述で実のところ結構ハードな作品だったりします、この本。
それこそ、テレビ版のほんわかしただけの雰囲気とは一線を画した、それでいて確実に『メビウス』の延長線上にあるこの世界観表現。本当に素晴らしい。
(以下、ネタバレあり)
ところで、本作の主人公はハルザキ カナタというオリジナルキャラクターです(後にOV版『ウルトラマンメビウス外伝 アーマード・ダークネス』で公式に逆輸入されますが)。地球防衛を担うエキスパートを育てる専科のエリートで、自信家で気取り屋、常にクールに振舞おうとするカナタ。彼からしてみたらCREW GUYSなんて所詮は寄せ集めの素人集団に毛が生えたようなもの。怪獣の人形やら園児からの贈り物の絵やらを飾っているなんてユルいにもほどがある。1話から追って見ていると自然とお馴染みな画ではありますが、確かに怪獣と戦うことのエキスパートを目指してそれ相応の訓練を積んできた人間からしてみればユルいと言われても仕方がないですよね。そんなカナタが如何にGUYSメンバーとして馴染んでいくかというところも見どころです。
そしてこの作品の中核にあるのが6年前に宇宙で起こった輸送艦ガーベラの襲撃事件。この事件でカナタは父を失い、そのショックから母が精神に異常をきたし、今に至る――それこそがカナタが全ての異星人を排除しようとしている理由です。憎むべき異星人、ウルトラマンであるミライという存在をカナタはどう受け止めるのか、その心境の変化は章を順に追っていけばわかることなのですが、この各章の置き方もまた絶妙です。
「魔杖の警告」でカナタの異星人は認めないというスタンスを描き、「ひとりの楽園」ではミライの人となりを知る、さらに「無敵のママ」では異星人によって蘇生させられた食堂のおばちゃんの存在を認めることで、本人は気付いていないものの異星人への許容のワンステップが踏み出されます。続く「怪獣使いの遺産」はかつて少年を守って死んだ異星人の話と、自分と境遇の同じ異星人と出逢うことで彼らがまったくの悪な存在ではなく理解し合える存在であるかもしれないと思い始め――終章「幸福の王子」では展開されてきた物語にひとつの決着をつけます。この流れが本当に自然。
特に、全5編のうちの間の3編なんかは、もともとテレビの脚本用にまったく関連性のない物語として作成されたにも関わらず、ここまで見事な流れを構築させたことには関心しきりです。いやぁ。これは傑作でした。
惜しむらくは歴代防衛チームの名称説明とマケット怪獣とは何なのかが明記されていなかったこと。これさえあれば初心者対策は完璧だったのに。とにかく、ウルトラファンでないライトユーザーにも断然オススメなSF小説です。
『メビウス』本編もこれを原作に1ヶ月くらい“ハルザキ カナタ編”を放送すれば大絶賛だったろうに……。
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