2021.12/07 [Tue]
チャールズ・ソウル『スター・ウォーズ ハイ・リパブリック ジェダイの光(上)(下)』
★★★★☆
スカイウォーカー・サーガから遡ること200年。ジェダイ騎士たちの守護のもと、繁栄を謳歌していた共和国は、新たな宇宙ステーションをアウター・リムに送ろうとしていた。だが、ある脅威がこの繁栄に暗い影を落とす。ハイパースペースで起きたレガシー・ラン号の謎の事故。アウター・リムに未曽有の危機が訪れ、アヴァー・クリスらジェダイ騎士団が力を集結する。だが、邪悪な存在によって更なる緊急事態が引き起こされ――。
「スター・ウォーズ ハイ・リパブリック」第1作。
「SW」カノン久々の邦訳小説は、米国で今年初めにスタートしたばかりの新シリーズ「ハイ・リパブリック」です。これまで日本で刊行された「SW」小説のうち、『EP1』以前を描いた作品は『ダース・モール 闇の狩人』『偽りの仮面』『ダース・プレイガス』のたった3作のみ、それも映画から十数年以上前の話となるそれこそ数十年前が舞台の『ダース・プレイガス』くらいなものなので、本「ハイ・リパブリック」もおよそ無理だろうと半ば諦めていましたが、講談社がやってくれました。基本的にナンバリング周りの商品展開が中心の本邦に於いては快挙という外ありません。ありがとう、講談社。ありがとう、海外キャラクター編集チーム。
今回焦点となるのはリナ・ソー議長によるアウター・リム発展計画"大偉業"と、それを妨げるようにハイパー・スペースから数多の破片が降り注ぐ"出現"と呼ばれる大災厄。映画本編以前のまだまだ発展途上にある時代、組織化された無法集団ナイヒルと未知なるハイパー・スペース航行を巡る一大ディザスター小説は既存の「SW」作品と比べても抜群のスケール感を誇り、映画以上に映画的な新たな地平の到来を予感させます。こういう"SWらしからぬSW"を待っていた!
フォースを歌と捉えるアヴァー・クリスやジェダイ・マスターの理想が服を着て歩いているかのようなローデン・グレイトストーム、出自から目的まですべてが謎に包まれたナイヒルの首領マーシオン・ローなど、初登場となるキャラクターたちも魅力的で、ナンバリングとは全く異なるシリーズの立ち上げにもわくわくさせられます。今回はちょい役ではありますが、ヨーダをはじめ『EP1』の評議会メンバーで寿命の長い方々がちらほら顔見世しているのも楽しいポイントで、個人的にはアヴァー・クリスのフォース=歌の考え方が後に『ビジョンズ』のジェイに繋がっていくのかな、などと思ってみたり。
かつての「クローン大戦ノベル」「NJO」が同時多発テロやイラク戦争の影響を大いに受けていると語られたように、本作もまた共和国の名の下にひとつであることを掲げる多様性、ハイパースペースレーン封鎖による分断、或いは(執筆時期的に)偶然の産物かコロナ禍の世界情勢を強く感じさせる部分がありました。
人の力ではどうにもならない惑星規模の災厄に見舞われる中、P.56で救援の一声を告げるアヴァー・クリスの何と頼もしいこと。 地獄に仏。最後の希望。共和国の守護者。『EP4』初見時、銀河を支配する強大な帝国相手にオビ=ワンひとりで何かできると思っているの?とついマジレスしてしまった人もきっといることでしょう。否、できるのです。ジェダイにはそれだけの期待に応えてくれる信頼が、予想を遥かに上回る力があり、これらの経験と史実を経れば、レイアからの「助けて、オビ=ワン・ケノービ」にさらなる重みが生まれること請け合いです。
ここで提示される"希望"の概念も『ローグ・ワン』で確立されたそれに沿っていて、ジェダイの存在をより尊いものに見せると同時に、ディズニー後の「SW」像――カノンの在り方を強く印象付けます。
最悪の惨事を回避すべくヘツァルに結集したジェダイたちの姿を、通信を通じて銀河中が固唾を呑んで見守る件はトレボロウ案のクライマックスを彷彿とさせ、加えてレイの「共にあれ」を想起させるアヴァー・クリスの"歌"によって真に完成された『スカイウォーカーの夜明け』になっているといっても過言ではないでしょう。
また、多くのジェダイたちをフォースで繋ぎ、強大な力を引き出すアヴァー・クリスの技は長年のスピンオフ読者にとっては「NJO」でジェイナ・ソロらが使用したフォースメルドに似ていることへの懐かしさもあり、一大スケールで強敵との戦いが描かれた両シリーズの共通項に嬉しくなります。
そう考えるとそもそもヘツァルの"出現"も『新たなる脅威』におけるサーンピダルっぽく、この辺りも執拗に出自をぼかしながらも狩人であることを強調するマーシオン・ロー=ユージャン・ヴォングの匂わせなんじゃないかなぁと疑わしく。今後の「ハイ・リパブリック」がどう展開していくのかはわかり兼ねますが、仮にコミック『The Edge of Balance』等で猛威を振るう「ハイ・リパブリック」のもうひとつの敵役・食人植物ドレンギアもマーシオンの仕込みならば、シェイパーの技術によって生み出されたのかとか、もっと飛躍するなら『EP9』や『The Rise of Kylo Ren』とのそこはかとない関連性が示唆されているシリーズだけにシェイパーの技術が皇帝のストランドキャスト製造に寄与しているのでは、なんて妄想が捗るのもリアルタイムでシリーズを追える醍醐味です。
その他にもハイパー・スペース・レーンの開拓で財を成したサン=テッカ一族の秘密(そう、あの"サン=テッカ"です)、"オルデランに裕福な親類"を持つブライス一家、来年6月に発売される予定の続三部作種明かし小説『Shadow of the Sith』とタイトルが対になっているのは?――と、「ハイ・リパブリック」のみには到底収まらないカノン史の根幹へちらほらと踏み込んでくる様は、今後に向けて気になることばかりで目が離せません。
ところで。本作は共和国とジェダイの黄金期がコンセプトなだけに、「我々は皆、共和国だ」のスローガンと共に、たとえどんなに不利で可能性が低くとも弱き者を見捨てない気高さと献身が、ジェダイのみならず多くの人々の原動力になっています。様々な種族、多くの惑星がひとつの国を形成し、皆が同じ未来を見据える。これは正しく理想の世界である一方、クロナラ提督がナイヒルの特攻に嫌悪感を抱いたように(実際はマーシオンの仕組んだ罠であったが)一歩間違えれば狂信的な盲従であるともいえます。この点、ラストで「我々は皆、ナイヒルだ」と述べるナイヒルと共和国はその実、本質としては表裏一体の関係にあることを示しているハズです。
公明正大なお題目を掲げ、私欲を捨てて"大偉業"の実現に邁進するリナ・ソーの立派な姿にはしかし、ナイヒルがすべて滅んだとは言い切れないのでは?という警告から目を逸らし、見たいものだけを見る都合の良い"現実"に耽溺する狡さがある。
マーシオン・ローは部下の死を利用し、切り取られた情報によって歪んだ"真実"を作り出す。前者は崇高な使命の下無自覚に、後者は意識的に大衆を扇動し、己が信ずる集団に属する喜びに浸る危うさが覗くのは、フェイクニュースや陰謀論が蔓延る昨今の世の中への痛烈な問題提起であるのかもしれません
他者の言動に染まらず、評議会から求められるジェダイの在り様から外れてもただひたすらに自らのフォースを求道する"変わり者"のエルザー・マンが、そんな作品のメインキャラクターのひとりに据えられているのも興味深いところです。
やがてナンバリング映画の頃には共和国は凋落し、「我々は皆、共和国だ」と口にする者はいなくなる。代わりに、フォースの感応非感応に関わらず多くの銀河市民の間に「フォースと共にあらんことを」が浸透しているわけだけれど、果たしてそこに理由はあるのか、ないのか――。
第2作や「ハイ・リパブリック」のヤングアダルト小説の邦訳にも是非とも期待したく、ヤレアル・プーフの如く首を長くして続報を待ちませう。ちなみにオビのQRコードからは今後の「SW」書籍に関するアンケに回答できるので、続刊を希望する方は漏れなく回答しましょう。
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小説は追ってますが、コミックは読んでないのでそこら辺が気になります。
ただ、EP9でスパイスの運び屋だった過去も明かされましたが…。