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300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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ジェームズ・ルシーノ『スター・ウォーズ カタリスト(下)』

スター・ウォーズ カタリスト 下スター・ウォーズ カタリスト 下
ジェームズ・ルシーノ 来安めぐみ

ヴィレッジブックス 2017-05-31
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★★★★☆
ジェダイなら、ここはフォースが強い、と言うでしょうね
クローン戦争は終結し、新たな時代が訪れた。だが、同時に最も暗い星が昇りつつある……。アーソ一家を分離主義者の手から救い出し、ゲイレンがエネルギー研究を続けることができよう環境を整えたクレニックだったが、それはデス・スター建造をついに実現させるという計画のためだった。エネルギー研究の成果は純粋に利他的に使われると信じていたがゲイレンだったが、妻ライラは夫の変わり様とクレニックの不可解な行動に疑問を持ちはじめていた――。


「スター・ウォーズ カタリスト」下巻。
 『EP3』の2年後、17BBYに突入しいよいよ本格的に動き出すデス・スター計画。それに伴ってゲイレンはそうとは知らずカイバー・クリスタルの研究に一層のめり込むようになり、愛すべき家族との距離が徐々に離れていることにさえ気付かない。ジェダイ・オーダーが崩壊したことでカイバーを容易に入手することが可能となって計画全体が飛躍的に進んだ反面、これまで秘されてきたクリスタルの構造分析とエネルギー転用に時間が掛かったとしたのは上手いですね。『EP3』ラストでお目見えされたデス・スターの完成に19年の歳月を費やした事実に対する理屈付けとして、レジェンズの政治上の問題で度々停滞せざるを得なかったという設定よりも自然です。
 デス・スターの絶大な威力の源をライトセーバーと同一に求めたことが皮肉となっているに留まらず、有無を言わさず納得させる説得性も備えています。『Ahsoka』で物議を醸したライトセーバーの新設定はむしろ、『ローグ・ワン』制作に合わせてこちらの方面を強化する狙いが大きかったのかもしれません。

 時代設定が17BBYなのも珍しいです。旧レジェンズでは何だかんだで新旧三部作の間の出来事は『EP3』直後の18BBYか『EP4』直前に偏っていたため、共和国→帝国の変遷期から少し先の新体制が根付き、落ち着きつつある本作のような年代はあまりなかったように思います。そんな中で、辺境に着々と手を伸ばし強引な手段で帝国に組み込むやり口やコルサントに僅かに残る保護区さえも開発してしまう慈悲の無さは後に見る帝国らしく、そんな銀河の向こうの出来事や大局などまったく関知しない一般人同然の視点が大きく取り上げられているのが『カタリスト』の特色にして興味深いところです。
 そうしたこともあってか、本作では皇帝の代わりに表舞台を取り仕切るマス・アミダの出番が多く、殆ど全編出ずっぱりなのには驚きました。パルパティーンがおいそれとは名前を呼んではいけないあの人になってしまった以上、マス・アミダが名実共に帝国の“顔”なんですね。映画本編でもパルパティーンの側近として印象を残していたとはいえ、よもやカノンでここまで出世しようとは。デンガー、タッグ、ナイン・ナンと並んでカノン化によって大きく救済されたキャラクターではないでしょうか。
 パルの腹心といえばスライ・ムーアの姿が影も形もないのですけれど、出身惑星のアンバラでは反抗運動が続いているとの記述と関係があるのかないのか……。男女の違いはあるとはいえ『EP7』から始まる続三部作の最高指導者スノークに似ているだけに気になります。

 もうひとつのブリッジ要素としてはソウ・ゲレラの登場も見逃せません。言わずもがなソウは『ローグ・ワン』冒頭にてライラが斃れゲイレンがクレニックに連れ去られた後、ジンを引き取って育てた人物ですが、『クローン・ウォーズ』で初登場を果たした頃からバリバリの好戦派で、根っからの研究者一家であるアーソ夫妻と友人関係にある点にいまいちピンとこないものがありました。しかしながら本書を読んで納得、ライラとゲイレンがクレニックに疑惑を抱くきっかけを与えた密輸業者ハズ・オビットを通してアーソ一家と知り合ったわけですね。
 ハズは元より行く先々でたくさんの大人たちを魅了し、誰にでも懐く幼いジンは成長後の芯の強い彼女とはまた違った愛くるしさです。他の登場人物たちと比べてセリフに漢字を使わず、会話文がひらがなになっているのも細かく、これは翻訳者さんGJでしょう。

 ちなみにライラはフォースを操ることはできずとも何となく感じ取ることはできているようで、この辺の描写はチアルートのそれと同様のものなのかなぁと。『反乱者たち』のベンドゥの教えを含め、カノンの「SW」ユニバースはフォースについてジェダイやシスの教義にあるライトサイドとダークサイドとは別の視点で語られることが多く、フォース感応者/非感応者に関わらず銀河全体がフォースを中心に回っている印象です。
 個人的にはカノンのこのフォース観はあまり好きではないのですけれども、それはともかくこのフォースに善悪も光と闇も存在せず“ただフォースがある”という考え方から『EP8』ひいては続三部作の「最後のジェダイ」というワードに繋がっていくのかな、と予想しています。

 しかしまあ上巻の感想でも書いたとおり、クレニックが帝国への野心を捨ててゲイレンがもっと早い段階で研究の誘惑を断ち切れていればふたりには幸せな人生も待っていたような。ゲイレンを逃したクレニックの怒りは裏切られたそれをぶつけたというよりも、友に理解されなかった悔しさの方が大きいように感じられました。

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ジェームズ・ルシーノ『スター・ウォーズ カタリスト(上)』

スター・ウォーズ カタリスト 上スター・ウォーズ カタリスト 上
ジェームズ・ルシーノ 来安めぐみ

ヴィレッジブックス 2017-05-31
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★★★★☆
戦争に見つかってしまった。
共和国と分離主義勢力の争いはさらに熾烈さを増し、双方が新兵器の開発に躍起となる中、共和国軍少佐オーソン・クレニックは、最高議長の機密機関である先進兵器研究部の代表として、敵勢力を圧倒する超兵器の開発を迫られる。クレニックの命が懸かった超兵器開発計画の成功の鍵は、気鋭の科学者でありクレニックの盟友でもあるゲイレン・アーソが握っていた……。


 カノンの邦訳「スター・ウォーズ」小説最新作は昨年12月に公開された実写劇場用映画初のスピンオフ作品『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の前日譚、『カタリスト』! 本国では映画に1ヶ月先駆けてのリリースだったので、なんと発売半年での日本語版刊行という驚異のスケジュールです。
 『ローグ・ワン』の主人公、ジンの父親にしてデス・スターの開発者であるゲイレン・アーソとその妻ライラ、共和国で特殊兵器部門を担うオーソン・クレニックが中心となる本作は、『ローグ・ワン』『クローン・ウォーズ』での展開を踏まえた新たなカノンとしてのデス・スター建造計画の全容を描いた物語です。旧レジェンズではレイス・サイナーやベヴェル・レメリスクといった錚々たる面々が参画し、モー秘密研究所やデスペイヤーといったロケーションからプロトタイプの存在、デス・スターの乗員たちの視点で完成前夜に迫る小説『デス・スター』の存在など、その経緯はギチギチまで凝り固まっているほどでしたが、そうした旧設定をすべて刷新し、信頼と安心のジェームズ・ルシーノの手によって「スター・ウォーズ」におけるデス・スターのオリジンが再構築されています。
 『EP4』に直結する『ローグ・ワン』の過去編が新三部作時代の、それも『CW』の真裏を舞台にしていたのは意外でした。前線で戦うでもなく、まともな戦況すらも耳に入ってこない民間企業で働く一介の銀河市民であるアーソ夫妻の視点は“歴史の横道”と呼ぶに相応しく、いつの間にか戦争が激化し、ある日ぴたりと終わってしまったことにも蚊帳の外の出来事のようで実感が沸かない。好きな研究に没頭し、一家3人でただ平穏に暮らせればそれで良い。そんな彼らがクレニックの策謀によって銀河の命運を握る悪魔の兵器に関わるどころかその中心に気付かぬままに据えられていく様は、劇的な何かが起きて状況が変化するより断然恐ろしいです。

 とはいえ『ローグ・ワン』の経緯や筋だけ聞けば目的のためにあれこれ手を回し、友を利用するのも厭わない冷血漢の見えて、クレニックは実に人間的魅力に溢れたキャラクターでもあります。学生時代のどんちゃん騒ぎが伝説になっていたり、女性に一切興味なしなゲイレン・アーソが恋をしたと聞かされてその相手がどんな人物なのか気になって仕方なかったり、友人自らデス・スター開発に参加するよう仕向けと思ったら予想外にも一緒に会社を興すことを提案されてお口あんぐりでその提案に一瞬揺らいでしまったり――。クレニックはフューチャーズ・プログラムで出逢ったちょっと変わった天才をよく理解していながらその突飛な行動にしばしば振り回され、ゲイレンはクレニック本人以上にオーソン・クレニックの資質と人となりをわかっている。
 結局のところクレニックは有能だけど常人なんですよね。どんなに頑張ってもヴェイダーやターキンといった歴史に名を残した人物たちとは並び立てない。だからこそより野心を抱き、より高い地位に就くことも渇望する。でも、その終着点がわれわれのよく知る『ローグ・ワン』の結末なわけで。
 学生時分から共和国で働くことを目標にしてきたクレニックだが、彼にはもっと適した居場所(=自分と新しい会社を立ち上げる道)があるんじゃないかと思うゲイレンからすれば、裏工作であくせくコネを作りパワーゲームに苦心する今の姿はクレニックらしさを殺した状態に見えていたんでしょうね。この小説を読んでクレニックというキャラをかなり気に入りました。
 『ローグ・ワン』のベイズとチアルートはもしかするとクレニックとゲイレンの“あったかもしれない姿”だったのかもしれません。
 ゲイレン・アーソの内気で人付き合いが苦手だが頑固、研究を前にすると寝食も忘れ、思いつくと途端に怒涛のように喋り出す性格付けも従来の「SW」にはなかったタイプのように思います。しかしそこは父親、生まれたばかりのジンの瞳の色がまだらに見えるのを星のようだと表現し、スターダストと称するシーンには思わず「繋がった!」と手を叩いてしまいました。スターダストという愛称にはそんな美しい意味が込められていたんですね。

 またデス・スター建造計画に絡んでポグル大公が主要人物のひとりになっているのも見逃せないポイントです。デス・スターの建設にジオノージアンが大きく関わっていたことは『EP2』『反乱者たち』、コミック『ダース・ベイダー』で明らかながら、そこに『CW』で捕まったポグル大公を絡めることで共和国により推し進められたことへの必然性を与え、且つ打ち切りにより『EP3』との間に生じてしまった『CW』で収監されたポグル・ザ・レッサーが『EP3』でジオノーシスにて殺害されている矛盾についても明確なアンサーを用意しているのです。実際、この辺の流れは実にスマートで後付けによって設定面がサグラダ・ファミリア状態に陥っていたレジェンズの何倍もわかりやすく整理されているのではないでしょうか。
 気になったのは計画には以前からターキンが関わっていたという話もある、との記述で『ターキン』の内容と擦り合わせるとターキンがデス・スターに関わるようになったのは14BBY以降となるハズ。これは旧レジェンズ時代にはデス・スターが『ローグ・プラネット』でゾナマ・セコートの存在を知ったターキンの案に端を発していたことへの目配せかしら。
 まああくまでもクレニックの聞いた噂でなので齟齬と言うにはオーバーにせよ『ターキン』『カタリスト』『ローグ・ワン』と時系列があっちゃこっちゃ飛んでいるので自分も細かい部分で理解が追いついていないかもです。
 代わりといっては何ですが、デス・スターの球形が意志ある惑星ゾナマ・セコートを模した設定から通称連合のコントロールシップの発展型という形で落ち着かせたのはなるほどなぁと。

 デス・スターにはライトセーバーの核と同じくカイバー・クリスタルが用いられているという近年敷かれた設定を大きく掘り下げている点にも注目です。オーダー66後のアソーカを主役にした小説『Ahsoka』においてライトセーバーの設定変更がなされ、日本でも大きな話題となったのは記憶に新しいところですけれど、本作でもそれに倣い“生物と無生物の中間的性質”を持つ生きた鉱物、カイバー・クリスタルはデス・スター開発を要とする本書では重要な位置を占めています。生きたクリスタルというと、アナキン・ソロがライトセーバーに使っていたユージャン・ヴォングのランベント・クリスタルみたいなものなのかな。デス・スターにも使用されるカイバーは特殊な内部構造のみならず近くにいる人間に不眠を引き起こす副作用もあるらしく(フォースで繋がろうとしている?)良い面ばかりとは言えない代物です。
 その性質と希少性故にジェダイは神聖なモノとして扱い、簡単には触れさせぬよう守ってきた一方、強大なエネルギーを生み人々の生活を豊かにする可能性を秘めたそれを己が利益のために独占してきたとヘイトを煽る要因にもなっているのが絶妙です。これによりパルパティーン殺害未遂の謀反による信頼の失墜をさらにダメ押し、帝国がカイバーを集める大義にもなっている。上手いこと考えられています。
 カイバーのもたらす効果が必ずしも人々にとって“善”とはいえないあたりも今後の「SW」ユニバースに対する含みのように思えます。

 ちなみに本作ではなんと「NJO」でチューバッカ亡き後、ハンの相棒を務めたドローマの種族リンがカノン入りを果たしており、レジェンズファンには嬉しいニュースでした。さすがはルシーノといったところです。
 というわけで、下巻に続く!


芦沢央『雨利終活写真館』

雨利終活写真館雨利終活写真館
芦沢 央

小学館 2016-11-29
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★★★☆☆
巣鴨の路地裏にひっそり佇む、遺影専門の写真館。祖母の奇妙な遺言が波紋を呼ぶ(「一つ目の遺言状」)。母の死を巡る、息子と父親の葛藤(「十二年目の家族写真」)。雨利写真館に残る1枚の妊婦写真の謎(「三つ目の遺品」)。末期癌を患う男性の訳ありの撮影(「二枚目の遺影」)。撮影にやって来る人々の生き様や遺された人の人生ドラマを見事な謎解きで紡ぎ出す。


 失恋の傷も癒えぬまま祖母の遺書に託された謎を知るべく遺影専門の写真館を訪れたヒロインが、お客としてやってきた人々の抱える事情と残された禍根を溶かすべく奮闘する連作ミステリ。
 『許されようとは思いません』で本ミス2017で第13位にランクインした著者による終活をテーマにした1作です。昨年度の本ミスはノーマークの作品、作家さんが多く個人的にはかなり意外な結果だったのですが芦沢央もそのうちのひとりでした。
 本作は4話構成となっていて、亡き祖母の遺した奇妙な、そして理不尽な遺言書からヒントを掻き集め本当の目的に至る暗号モノ「一つ目の遺言状」が特に抜きんでています。終活とは自らの人生を振り返り、締めくくる行為であり、そこには長い年月の間に蓄積された想い出とパーソナリティがすべて詰まっている。だからこそ、過去を振り返る作業が直接的に謎解きへと繋がっていく。かつて新本格は人間が描けていないと揶揄されましたが、本書においては推理を行う作業そのものが故人(まだ亡くなっていないパターンもありますが)の生きてきた道を語ることでもあるのです。

  一方でそれ以外の3本はタネに見当がつきやすく、情報が出揃わない段階からヒロインが真相をコレと決めつけ飛びついてしまうため作者が先走って誤導しようとしているようで、どうにも上滑っているように感じてしまいます。また件の「一つ目の遺言状」についても謎解きはともかく、実用性とは異なる部分で果たしてそれで価値を担保できているのかが門外漢には少々疑問。そこまで突っ込むのは野暮とは思いつつもあと一歩のフォローが欲しくもありました。
 いま流行りのいわゆる“ほっこり”系のように作り上げようとすればもっとハートフルで優しい世界にできそうなところを敢えてそこまで踏み込まず、人間関係に解決の糸口だけ見せて後は各人の未来に任せる押しつけがましくない温かさはこの手の作風としてはなかなか異色で、良い意味でドライな距離感も新鮮です。


甲賀三郎『蟇屋敷の殺人』

蟇屋敷の殺人 (河出文庫)蟇屋敷の殺人 (河出文庫)
甲賀 三郎

河出書房新社 2017-05-08
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★★★☆☆
東京・丸の内の路上に停車中の自動車内に、謎の首切断死体が発見された――。広大な屋敷に蠢くがま蛙、久恋の女秘書、怪奇な幽霊、いわくの美女、蟇屋敷主人……。探偵作家と刑事は横浜、鎌倉、埼玉奥地、大阪へと犯人を追う。


 庭には無数のカエルが放され、書斎には巨大な蟇の置物が鎮座する不気味なお屋敷を中心に、その主の周りで起こる連続首裂き事件を綴った長編ミステリ。初出はなんと昭和13年(1938年)の戦前にまで遡る1作がこの度、KAWADEノスタルジック〈探偵・怪奇・幻想シリーズ〉の叢書として初文庫化と相成りました。河出書房新社に限らず近頃、戦前戦中に書かれたミステリが各社から続々復刊されており、幻と謳われた作品が安価で気軽に読める文庫判にて入手できるばかりか、こうしてまだ見ぬ古典に容易に触れられる機会が定期的に訪れるのはいちミステリ読者としても嬉しいです。
 想像するだけで身の毛もよだつ蟇尽くしの奇怪な豪邸、深夜に跋扈するのっぺらぼう、同時刻に複数箇所で目撃される同じ顔の男といった奇想性満点の物語も、この時代に書かれたものだったからこそより真に迫ったリアルさを醸します。

 あらすじからは首斬りが主題のような印象を受けますが実際には首の皮一枚でギリギリ胴体と繋がっているケースの方が多く、そこには重きは置かれません。どちらかといえば焦点となるのはアリバイ崩しの方でしょう。
 “そっくりな顔を持つ人間”という謎は現代の読者にとってはもはや珍しいものでなく、まず間違いなく想定する回答があるハズで本書においてもそれは例外とは言えず、中核を担う発想自体は恐らく一緒です。しかしながら複雑な時系列を整理していく過程でどうやらそう簡単な話でないことに気付かされます。そしてそこにあるピースを嵌め込むことで完璧な正答にまで綺麗にもっていけるつくりにはフェアプレイの真骨頂が見えました。
 2010年代後半になった現在においては類型的であるメイントリックも、80年前に著されたことを考えるとむしろその発想の古びなさに驚かされると同時に、これほど前から既にこの着想で本格ミステリが書かれていた事実に感心します。
 執筆された時代ゆえ設定面でわりかし大雑把な部分があったり、探偵役が再会したヒロインに熱を上げすぎてまったく周りが見えなくなるどころか捜査の足しか引っ張っていなかったりもすれど、それもまた古き良き探偵小説の香りがして味なものです。


青柳碧人『西川麻子は地理が好き。』

西川麻子は地理が好き。 (文春文庫)西川麻子は地理が好き。 (文春文庫)
青柳 碧人

文藝春秋 2014-11-07
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★★★☆☆
老富豪は土蔵に閉じ込められて死んでいた。事故と思われたが、なぜか床は一面、真っ赤に塗られていて――完全犯罪に挑むのは「地理」をこよなく愛する地理ガール探偵、西川麻子。遺言状に隠された地図記号の暗号、アフリカの湖にまつわる意外すぎる犯罪ほか、世界地理のトリビアで6つの謎を解き明かす。


「西川麻子」シリーズ 第1作。
 学習塾を舞台にした『国語、算数、理科、誘拐』から始まる「JSS」シリーズの登場人物のひとり、西川麻子を探偵役に据えたスタンドアローン作です。
 「浜村渚」の数学に対して地理に特化した教科別の“お勉強”作品ではありますが、あちらほどぶっ飛んだ設定や世界観にはなく、教育系出版社に勤めるフツーの編集者である麻子が恋人の刑事から聞き知った事件を地理の知識で解いていく連作短編です。作者の本業が塾講師、それも社会科の担当ということもあってその本領たるフィールドでの満を持してのミステリといえましょう。
 無意味なキャラ付けの変人が出てくる悪ふざけ加減も青柳碧人らしいです。

 ダイイングメッセージの在り処を示した「メッセージはベルトの跡に」、アリバイ崩しが主題の「グンカンドリの気が早い犯罪」、動機が焦点の「青山士よ、永遠に」など収録された6篇はひと口に地理ミステリといえども内容に富んでいて、それぞれに印象的なモチーフが使われます。実際のところ、それらが謎と上手に噛み合っているかというとそうでもありません。
 暗号ものである「大将の地図記号」は謎解き、オチの付け方共に優れているものの、多くは犯行の成功は厳密性にご都合な面が否めないし、被害者が犯人の行動を完璧なまで予期しているなどの不自然さも残ります。ジャンルネタのミステリにありがちな専門知識に依った解決もあり、話によってはアンフェアな感も拭えません。
 とはいえ一見、平凡な事件に世界地理を絡めていくアイディア、バカミスすれすれの着想は実現の可能性はさておいて嫌いになれないのではないでしょうか。必然性に甘く、お世辞にも出来が良いわけではありませんが、本格ミステリにケレンを求める読者には好みな作風だと思います。


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プロフィール

はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

当ブログはリンクフリーです。
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2014年のベスト5

2014年に読んだ小説の       (暫定)ベスト5はこれ!!

2012年のベスト5

2012年に読んだ小説の        ベスト5はこれ!!

2011年のベスト5

2011年に読んだ小説の          ベスト5はこれ!!

1.トリプルプレイ助悪郎(2007年刊)   2.名探偵に薔薇を(1998年刊)             3.化物語(2006年刊)          4.時砂の王(2007年刊)                  5.天帝の愛でたまう孤島(2007年)

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