積読本は積読け!!

300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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青柳碧人『西川麻子は地理が好き。』

西川麻子は地理が好き。 (文春文庫)西川麻子は地理が好き。 (文春文庫)
青柳 碧人

文藝春秋 2014-11-07
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★★★☆☆
老富豪は土蔵に閉じ込められて死んでいた。事故と思われたが、なぜか床は一面、真っ赤に塗られていて――完全犯罪に挑むのは「地理」をこよなく愛する地理ガール探偵、西川麻子。遺言状に隠された地図記号の暗号、アフリカの湖にまつわる意外すぎる犯罪ほか、世界地理のトリビアで6つの謎を解き明かす。


「西川麻子」シリーズ 第1作。
 学習塾を舞台にした『国語、算数、理科、誘拐』から始まる「JSS」シリーズの登場人物のひとり、西川麻子を探偵役に据えたスタンドアローン作です。
 「浜村渚」の数学に対して地理に特化した教科別の“お勉強”作品ではありますが、あちらほどぶっ飛んだ設定や世界観にはなく、教育系出版社に勤めるフツーの編集者である麻子が恋人の刑事から聞き知った事件を地理の知識で解いていく連作短編です。作者の本業が塾講師、それも社会科の担当ということもあってその本領たるフィールドでの満を持してのミステリといえましょう。
 無意味なキャラ付けの変人が出てくる悪ふざけ加減も青柳碧人らしいです。

 ダイイングメッセージの在り処を示した「メッセージはベルトの跡に」、アリバイ崩しが主題の「グンカンドリの気が早い犯罪」、動機が焦点の「青山士よ、永遠に」など収録された6篇はひと口に地理ミステリといえども内容に富んでいて、それぞれに印象的なモチーフが使われます。実際のところ、それらが謎と上手に噛み合っているかというとそうでもありません。
 暗号ものである「大将の地図記号」は謎解き、オチの付け方共に優れているものの、多くは犯行の成功は厳密性にご都合な面が否めないし、被害者が犯人の行動を完璧なまで予期しているなどの不自然さも残ります。ジャンルネタのミステリにありがちな専門知識に依った解決もあり、話によってはアンフェアな感も拭えません。
 とはいえ一見、平凡な事件に世界地理を絡めていくアイディア、バカミスすれすれの着想は実現の可能性はさておいて嫌いになれないのではないでしょうか。必然性に甘く、お世辞にも出来が良いわけではありませんが、本格ミステリにケレンを求める読者にはきっと好みなタイプの作風です。


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Cavan Scott『Star Wars:Adventures in Wild Space:The Snare』

Star Wars: The Snare (Star Wars: Adventures in Wild Space)Star Wars: The Snare (Star Wars: Adventures in Wild Space)
Cavan Scott David M. Buisan Lucasfilm Ltd

Egmont Books Ltd 2016-02-25
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★★★☆☆
遠い昔、遥か彼方の銀河系で……。悪の帝国軍人キャプテン・コーダによって両親を拐かされたリナ・グラフとマイロの姉弟は、彼らの宇宙船ウィスパー・バードに乗り、父と母を救出するために踏み出した。しかしそこには帝国の部隊が待ち構えていて。ふたりは果たして罠から脱け出すことができるのか――?


「Adventures in Wild Space」第2作。
 大変長らくお待たせしました。前作『The Escape』に続き、リナとマイロの姉弟を主人公にした「スター・ウォーズ」の未邦訳カノンジュニアノベル「Adventures in Wild Space」の第2巻を読み終えました。シリーズ全体のプロローグともいうべき導入編の前作からいよいよ本題に突入した今巻は、ボリュームも2倍にアップして160ページとなり、装丁も新書調の薄いものからしっかりしたつくりのソフトカバーサイズのペーパーバックに変わっています。読み始めてしまえばそこまで長いものでもないのですけれども、洋書初心者で英語が苦手な自分としてはこの増量にやや怯んでしまいました。
 今作の特に後半はマイロの頑張りがものを言い、普段は生意気ばかりでいざというときはお姉ちゃん頼りだったマイロが姉のため、また学者夫婦の息子として大きく成長する話でもあります。

 前巻ラストでオーリック・ワールドを命からがら脱出したリナとマイロ、ペットでコワキアン・モンキー=リザードのモーク、パッチワークドロイドのCR-8Rの一行は助けを求め、両親の知り合いがいる惑星サーンに目的地を定めるも爆発に巻き込まれたウィスパー・バードの損傷は激しく、そこら中から煙を上げている状態で、リナは宇宙空間を航行中に外に出て修理する必要に駆られます。さらに間の悪いことにリナの船外活動中、2隻のTIEが来襲し緊急措置としてエンジニアリング区画への避難を余儀なくされてしまいます。というのも、目標地であるサーンには帝国の宇宙港があり、その周囲にはひっきりなしに帝国の船が飛んでいるのです。
 船外ハッチから出るに出られないリナを抱えたウィスパー・バードに次に降り掛かった問題が宇宙港の管制センターからの通信でした。コーダたちには爆発により破壊したと信じさせたい彼らが本当の身分を明かせるハズもなくしどろもどろに誤魔化そうとするマイロでしたが、ここでCR-8Rに偽造IDが隠されていることが発覚し、ことなきを得ます。いくらIDを偽装しているとはいえ子供ふたりに誤魔化される帝国のハーバーコントロールも大概ガバガバというか何というか。もうちょっとセキュリティ頑張ろうよ、と思わなくもなかったり。
 この偽造ID、どうやら母親のリサが仕込んでいたものらしく、危難を切り抜けて安心する一方、どうしてこんな怪しげなデータが存在するのか?と子供たちは動揺を隠せません。
 と、同時にダウンしていたパワーを回復させるリナでしたが、許可が下りたら下りたで入港を急かされる始末。これ以上ゆっくりしているようならトラクタービームで強制的に引っ張るとまで言われ、マイロはリナの回収を諦め悲鳴を上げる彼女をエアロックに残したまま地表に降りる覚悟を決めます。CR-8R曰く一応密閉されていて大丈夫とのことですがとんでもない選択であることには変わりないかと、リナの恐怖は想像するに余りあります……。

 無事サーンに降り立った一行は早速、無数の羽虫の歓迎を受けます。サーンという惑星は水路も豊富でヴィジュアルを想像するにヴェネチアのような雰囲気なのですが如何せん河川があまり衛生的でなく、整備された街並みと混沌とした市場がごっちゃになっているような東南アジアっぽい印象も受ける環境です。色んなエイリアンたちの体臭と河川の汚臭、飛び交う虫たち――と、お世辞にも綺麗とは言い難く、あまり訪れたいところではないですね。
 またこの手の場所にありがちで治安もあまり宜しくなく、船から降りた姉弟は宇宙港でナズゴリガンと名乗る怪しげな商人に虫除けと偽ってバッタもん商品を掴まされます。このあたりは旧レジェンズの「ボバ・フェット」なんかにも似て、純真すぎて汚れを知らない子供に対する一種の通過儀礼といえるでしょう。
 ところでこのナズゴリガン、名前からもピンとくるように『反乱者たち』に登場するアズモリガンと同種族のジャブロジアンです。せせこましい悪徳商人であるアズモリガンは実はかのジャバ・ザ・ハットの初期デザインを流用したキャラクターであるのですが、実はこのジャブロジアンの出身惑星こそ『EP7』でハン・ソロを追い立てるギャング集団カンジ・クラブ発祥の星、ナー・カンジなのです。そしてカンジ・クラブはハットの元奴隷たちで構成されているという設定があり、思わぬ繋がりに嬉しくなりました。

 サーンに着いたリナとマイロは当初の目的どおり、両親の知人であるサラスタンのディル・ペクストンに連絡を入れます。ディルはグラフ夫妻がワイルド・スペースを探索し、調査して作成した地図などを仲介し買い手とを繋ぐエージェントであり、姉弟とも赤ん坊の時分から面識がある人物です。自分たちの身に起きた出来事と助けがいること、両親が残した暗号化されたファイルを持っていることを話すとディルはすぐさま会いたいと伝えてきます。とはいえいつ帝国の追っ手があるやも知れぬことを危惧したリナは、そのくらいのお遣いは簡単だと飛び出さんばかりのマイロを引き止め、文句を垂らす弟にウィスパー・バードの修理を、CR-8Rには暗号データの頼みモークと共に自らディルの元へと向かうことを決めるのでした。
 まあ、考えるまでもなく罠ですよね。ディルはやっぱり脅されていて裏切るわ、コーダはわかりやすいくらいヒールなキャラ付けだわでこの辺の展開の安心さはさすがのジュニアノベルでしょう。この人物配置ならまず間違いなくこうだな、と感じた要素はことごとく外しません。が、少年少女を主役にした物語としてしっかり見せ場を用意してくれるし、子供たちの危うい冒険を見守る親目線や各人のやりとり、カノンにおける位置づけとしての興味で楽しませてくれるので退屈しないのが本シリーズの良いところです。
 オフィスにやって来たリナをディルが迎え、初めは親身になって話を聞いてくれるも何か様子がおかしい。挙句の果てには暗号化されたデータを今すぐ渡すよう強く迫り、いよいよもって危機感を覚えたところにコーダが登場します。姉弟が難を逃れた場合、真っ先に連絡するだろう相手を見越して先回りし、トルーパーを引き連れディルに協力を迫っていたのです。すべてを悟ったリナを奮戦しますが子供の力でどうにかなるハズもなく、敢え無く捕縛。モークだけが窓から逃げ出します。
 ちなみにCR-8Rに偽造IDが仕込まれていたのは、かつてディルが密輸業者を手引きしていた際に手に入れたものをいざというときのためにオーリックに送っていたからでした。

 一方、居残り組のマイロはこの星の固有種であるコブを持った巨大なハチをビンに捕まえて暇を飽かしていました。リナがメカニカルに強いジェイナみたいなタイプであるのに対してマイロは始終好奇心旺盛な学者肌で、探究者であり研究者でもある両親の気質をよく継いでいます。インユニバース書籍『ギャラクティック アトラス』の序文では星ひとつが丸々巨大な博物館になっているオーカス2こと“グラフ・アーカイブ”について触れられていますが、もしそれが近い将来――或いは遠い未来、“グラフ”の姓がつく者によって作られるのならばきっと発起人はマイロなんだろうなと思います。
 CR-8Rによるとこのハチは下に猛毒を持っているそうで、挿絵のガマガエル並みの巨大さからいってもわれわれが一般的に想像するハチの概念からは掛け離れています。衛生環境が悪い上、こんな虫というより翅の生えた爬虫類みたいな生物が群れているサーンの生態系やばいな……。
 そうこうしていたところに混乱した様子のモークがひとり戻ってきて、同時にウィスパー・バードにコーダからの通信が。リナの身柄と引き換えにリサが残した暗号データを要求してきます。断る術のないマイロは取引に応じると答え、約束の場所に指定されたマーチャント・ブリッジへと向かうのでした。

 大勢の通行人がいるマーチャント・ブリッジでの人質交換に現れたのはすっかりコーダに逆らえなくなってしまったディルであり、人一倍コーダの恐ろしさを知るディルの説得も空しくマイロはリナを連れて逃げようとします。が、しかし橋の両端には既にストームトルーパーたちが待機しており、マイロはコーダと対峙するのでした。ここでディルはトルーパーに撃たれ、残りの人生を鉱山労働に費やす旨を伝えられます。リナを傷付けないでほしいと訴えるには訴えるものの、基本的には言いなりなのでディルにはあまり憐憫の情は沸かないとはいえ、コーダが一応の説得の機会を設けてくれたのは意外でした。
 コーダはリナの勇気とマイロの聡明さを買っていると述べ、自分が口利きをすれば帝国アカデミーにも入れると勧誘しますがマイロはこれを突っぱねます。帝国を盲信しアカデミーに憧れていたマイロはもうおらず、はっきりと自らの意思で立ち位置を決めた瞬間といえるでしょう。
 当然のことながらコーダはこれに業を煮やし、CR-8Rがデータを保持していることを知って強硬策に打って出ます。トルーパーによる十字砲火で橋上が混乱に陥る中、マイロの命令によってCR-8Rが大きな音を発すると例のハチが群れをなして彼らに襲い掛かります。
 実はCR-8Rが発したのはハチたちの用いる警告音で、捕まえた試料からマイロが考えた逆転の策だったのです。ハチたちはトルーパーやコーダの他にも民衆やマイロたちにも襲い掛かるものの、リナはモークが手癖の悪さを発揮してナズゴリガンが盗んだ本物の虫除けスプレーを振りまきこれを回避。パニックの坩堝にある橋から飛び降り、河を渡ってCR-8Rの見つけてきたボートに乗り込みます。ボートを運転するマイロの顔に張り付くモークに、リナが「誰かに抱き着かなきゃならないんだったらCR-8Rにしなさい!」と言う場面には笑いました。CR-8Rはことあるごとにモークを汚らわしくて醜い小さな動物と言って嫌っているんですよね。

 コーダもコーダで諦めず、ハチの毒にやられながらも街の人から奪ったスピーダーで地上から追跡。隙あらばマイロたちのボートに向かってブラスターを放ちます。ここでコーダのバックグラウンドとしてかつてマラケンの戦いでドロイド軍相手に闘い、そこで顎を失ったと語られます。本作の設定年代が推定18BBYである事実を鑑みるに、恐らくこれはクローン大戦中の出来事だと思われるのですけれど、そうなると共和国軍にもこうした悪の軍人がたくさんいたことを意味するわけで。ジェダイが華々しく活躍する側の陣営がここまで無辜の市民を顧みない悪辣な人間によって成り立っていたというのも複雑です。劇薬療法とはいえ、一度帝国に変わり反乱軍がそれを打倒したことは大局的に見れば自浄作用だったのかなぁと。まあ、結局カノンではその後、極端な平和主義と堕落主義によってそうして生まれた新共和国も失墜していってしまったのですが。それはまだ先の話。
 兎にも角にも追跡を振り切るためウィスパー・バードを目指すリナとマイロ、執念深くそれを追うコーダのチェイスの結末はあっけなく、宇宙港に入りあと一歩で追いつかれるといったところでタイミング悪く、モークに奪われた虫除けスプレーを返せと訴えるナズゴリガンが飛び出し、コーダは突然の乱入者を避けきれずに衝突。地図確保の進捗状況を聞くため連絡してきたヴェイダー卿相手に思わず「子供に逃げられた」と口走り、怒らせてしまうコーダが哀れです。そりゃまあ大失態でしょうよ。

 間一髪、逃げ切ったリナとマイロはウィスパー・バードで離陸するも、管制塔には既に逃走者の情報が届いており、成層圏内でたちまち包囲されてしまいます。子供相手に二度もしてやられたコーダですが、こういうところは本当にスピーディーで対応能力が高いです。
 が、その状況でリナが提案した手がまたとんでもなく、成層圏内からのハイパースペース突入を目論みます。「SW」では知ってのとおり、惑星近くでは重力が邪魔をしてハイパードライブは起動できないハズである反面、『EP7』や『反乱者たち』ではわりとホイホイやってのけている描写もあり、その度に議論の的となっていました。本作でCR-8Rは惑星の重力圏内でハイパードライブを使えないのはセーフティシステムが起動するからだと述べており、じゃあそれらを切ってしまえば行えるハズだとリナは主張します。危険なことには変わりないのでしょうけども、カノンにおけるハイパースペース問題は重力そのもの影響よりもコンピューターのプログラム上の関係という解釈になっているのかな。あまりこの辺りのメカニズムには詳しくないのではっきり断言できないのが申し訳ないです。
 そんなこんなでサーンを脱して今巻は幕、両親救出の手立てを失った一行は偶然拾った反帝国を呼びかけるメッセージの発信元に一縷の望みを託して向かいます。
 次巻『The Nest』のレビューも読了次第、なるべく詳しく行っていくつもりですのでまたお付き合いください。


海野十三『蠅男 名探偵帆村荘六の事件簿(2)』

蠅男 (名探偵帆村荘六の事件簿2) (創元推理文庫)蠅男 (名探偵帆村荘六の事件簿2) (創元推理文庫)
海野 十三 日下 三蔵

東京創元社 2016-09-26
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★★★☆☆
名探偵帆村荘六、再び帰還!科学知識を駆使した奇想天外なミステリを描いた、日本SFの先駆者と称される海野十三。鬼才が生み出した名探偵が活躍する推理譚から、傑作集第二弾を精選して贈る。密室を自由に出入りし残虐な殺人を繰り返す、稀代の怪人との対決を描く代表作「蠅男」。在原業平の句にちなんだ奇妙な館に潜む恐るべき秘密を暴く「千早館の迷路」など、五編を収録。


「名探偵帆村荘六の事件簿」第2作。
 一昨年、創元推理文庫から刊行された『獏鸚』『火葬国風景』が好評を博したとのことで第2弾が発売されました。前作で新本格ばりの着眼点と先見性に感心しすっかり魅了されてしまったので迷わず購入。「帆村」ものの長編「蠅男」に加え、短編「暗号数字」「街の探偵」「千早館の迷路」「断層顔」の4作が収められた5本構成です。また、ふた月遅れでノンシリーズ傑作選の第2弾『深夜の市長』もリリースされています。
 今巻の目玉ともいえる表題作は密室状況をものともせず、捜査陣の目を掻い潜って殺人を続ける怪人・蠅男との対決を描いた長編で、全体のおよそ2/3を占めます。不可能状況や密室殺人といったキャッチーな要素が目を引きますが、実際には昭和の暗闇を跳梁する奇人と名探偵との追いつ追われつな大捕り物が主体であり、江戸川乱歩の「少年探偵」シリーズに近しいテイストです。在原業平の符合に彩られた館もの「千早館の迷路」もやはり同様で、全体を通して本格というよりもレトロな香りを残した怪奇SFといった風合いが色濃いです。

 ミステリファンとして注目したいのは虫食い算の数式を機械的に解いていく暗号ものの「暗号数字」でしょう。割り算の数式に空いた穴を埋めていく作業もさることながらその裏に隠された真の目的にはしてやられたと表現するのがぴったりで、魅力的な暗号に熱中しすぎるほど足元を掬われます。伏線も申し分なく、今巻収録作の中ではベストです。
 ひとつ苦言を述べるのなら、メイン長編扱いされる「蠅男」の中核部分が前作『獏鸚』収録の某短編と被ってるのが残念でした。傑作選という性質上、作者の代表作や生前興味を抱いていた主題を少しでも読者に紹介できるよう吟味するのはむしろ当然の考えとはいえ、顔となる長編に既視感があるのはせっかくの機会が勿体ないなと思わないこともありません。そこはもう少し配慮して調整して欲しかったです。


北山猛邦・佐藤友哉(作)&片山若子・笹井一個(画)『おはなしごほん』

0210000000032[1]
★★★★☆
待っていて、必ず戻るから
冬になると海の向こうから流れてくる流氷の中から出てきた猫人間のクロと「わたし」の出逢いと別れを綴った「猫倫敦」。ある日空一面に咲き誇った花の影響で人々が殺し合い、少女と「おれ」が死屍累々の街を往く「花下」。北山猛邦と佐藤友哉による2編を収録したミニ絵本。


 北山猛邦の「少年検閲官」「音野順」シリーズの表紙絵を手掛けるイラストレーターの片山若子と佐藤友哉の「鏡家サーガ」でお馴染みの笹井一個が画集『渋皮栗』と『ガソリン』の発売を記念して2011年に制作された同人誌です。
 高さにして15cm、総ページ数36Pのミニマムなつくりながら一般の書籍と何ら遜色ないくらいにしっかりとした装丁、全編に渡り温かみあるフルカラーの挿画は溜め息が出るほど美しく、素敵な小品と呼びたくなるような仕上がりです。文章に添えられたイラストがふたつの物語と響き合って作品世界を拡げ、読み手の心を惹き込みます。

 一本目となる北山猛邦「猫倫敦」は毎冬、猫の閉じ込められた流氷が漂着する町で氷を溶かし猫を取り出す作業を行う祖父と「わたし」の元にある日、耳としっぽの生えた猫人間がやってくるというお話。海の向こうの猫倫敦からネコールドスリープさせた猫を送り出す業務に携わっていたという彼は、やがて人間たちの注目を浴びそのことがきっかけで猫警察によって猫文明種の世界へと強制送還させれてしまいます。メルヘンでどこか静謐な空気感が北山猛邦らしく、本格ミステリとまったく無縁に思えるストーリーと絵本という媒体にあってWhyとHow、大がかりな物理トリックで物語を綺麗に着地させてみせる名篇です。
 続く佐藤友哉「花下」も終末ちっくな世界観が特徴的で、セカイの終わりともいえる状況を無邪気に楽しむ少女と彼女と行動を共にしつつも自分の中で違和感を消化し切れない「おれ」が語り手です。空に花が狂い咲き、人々が暴徒と化した前、少女と「おれ」は恐らく厭世的で退廃を望んでいたのでしょう。それは思春期特有の“暗さ”なのかもしれません。
 けれど、実際そうなってしまうとやはり違う。破滅をもたらす花によって鮮やかに彩られた空の下、彼はそうしたポーズをかなぐり捨てて、絶望の中で自らの本心を見つめ直し明日への一歩を進んでいく。最悪な状況も言葉を繰ることでまるで真逆のものにしてしまうのはファウスト世代らしい視点でした。

 普段のパートナーを敢えて交換し「猫倫敦」を笹井一個が、「花下」は片山若子をメインに据えていたのも意外です。流氷の寒色と花の暖色、前半と後半でそれぞれ対照的な色づかいながらどちらも「希望」の物語であり、読み終えた後に心に残る絵本です。
 出版の経緯が経緯なためなかなか入手の難しい希少な品ではありますが、機会があれば是非手に取って頂きたい作品です。大切にしたいと思います。


島田荘司『改訂完全版 異邦の騎士』

異邦の騎士 改訂完全版異邦の騎士 改訂完全版
島田 荘司

講談社 1998-03-13
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★★★★☆
失われた過去の記憶が浮かび上がり、男は戦慄する。自分は本当に愛する妻子を殺したのか。やっと手にした幸せな生活に忍び寄る新たな魔手。名探偵・御手洗潔の最初の事件を描いた傑作ミステリー『異邦の騎士』に著者が精魂こめて全面加筆した改訂完全版。幾多の歳月を越え、いま異邦の扉が再び開かれる。


「御手洗潔」第4作。
 島田荘司のライフワークにして日本を代表する名探偵、御手洗潔ものの代表作にして“最初の事件”と銘打たれた長編ミステリ。発表順としてはシリーズ4作目に位置しますがその実、デビュー作『占星術殺人事件』よりも以前に書かれた文字通りの処女作です。
 物語は記憶喪失の男が運命の女性と出逢い、元住吉のアパートで一緒に暮らし始めるところからスタートし、やがて共に生活するうちに見つかるかつての自分の持ち物と思われる免許証、“過去の記憶”と犯したかもしれない罪の足跡に悩まされ、苛まれていく様子が描かれます。気付いたときには過去の記憶がすっぽり抜け落ち、何が何だかわけがわからないまま物語が進行するため語り手と読者が同じ視点に立つこととなり、現在の幸せな生活が壊されてしまうことへの恐怖や猜疑心、見え隠れする過去の影に対する不安がダイレクトに感じられるのも没入感を高めるのにひと役買っています。
 そんな中で記憶喪失の男にとって恋人の他に気の置けない唯一の存在として、追いつめられる友を想い誰より親身になって彼を救わんとする御手洗の果たす役割はただの探偵役に留まらず、本作の魅力の大部分は御手洗の優しさと温かみに依るところが大きいです。推理に飽かして奇行に走るエキセントリックなキャラクターだけでない、御手洗潔の人となりが存分に詰まっていました。

 また、本来の執筆順と刊行時期がズレたことによってストーリー面、ミステリ部分にも大きな効果を生んでいて、“御手洗潔の最初の事件”と聞いてシリーズ既読者の多くが想定する展開にはどうあってもなりそうにないらしい、という複雑性が事件の全体をより入り組んだものに見せ、容易には解き明かせないものへと変えています。
 『占星術殺人事件』『斜め屋敷の犯罪』『御手洗潔の挨拶』に続く4作目であればこそ意味があるのです。これが本来どおり、新人作家のいちデビュー作として単体で刊行されていたのなら、恐らく現在ほどの評価はされていなかったのではないでしょうか。
 加えて本作は記憶喪失というギミックを存分に活用したミステリであり、最先端の科学に謎を見出す手法はまさしく氏が後に提唱することになる「二十一世紀本格」のそれに相違ありません。そのスピリッツが既にデビューする前のこの段階から垣間見えるというのは非常に興味深いです。 
 『占星術』や『斜め屋敷』の驚天動地な大仕掛けに比べるとわかりやすいインパクトには欠けますが、その剛腕っぷりとはまた別の方向で本格ミステリ作家・島田荘司のオリジンと呼ぶに相応しい作品でした。


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プロフィール

はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

当ブログはリンクフリーです。
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2014年のベスト5

2014年に読んだ小説の       (暫定)ベスト5はこれ!!

2012年のベスト5

2012年に読んだ小説の        ベスト5はこれ!!

2011年のベスト5

2011年に読んだ小説の          ベスト5はこれ!!

1.トリプルプレイ助悪郎(2007年刊)   2.名探偵に薔薇を(1998年刊)             3.化物語(2006年刊)          4.時砂の王(2007年刊)                  5.天帝の愛でたまう孤島(2007年)

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