積読本は積読け!!

300冊の積読本もなんのその、本や映画の感想などをつらつらと述べてみたり。

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村上暢『ホテル・カリフォルニアの殺人』

ホテル・カリフォルニアの殺人 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)ホテル・カリフォルニアの殺人 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
村上 暢

宝島社 2017-08-04
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★★★☆☆
あの特別な部屋、そして豪奢な衣装……それを手に入れるために、女たちはみんな必死なんですよ
ロックの本場の空気を感じるため渡米した日本人ミュージシャン・トミーこと富井仁と、気ままに旅するアフリカ系アメリカ人のジミー。ルート66を西へと進む途中で、限られた人間のみが存在を知る「ホテル・カリフォルニア」に迷い込んだ二人は殺人事件に巻き込まれる。連夜のパーティで歌を披露する歌姫の一人が、密室で喉に短剣を突き立てられた状態で発見されたのだ。音楽に関する知識で事件解決に乗り出すトミーだが、やがて不可思議な状況下で二人目の犠牲者が――。果たして犯人は? 方法は? そしてその目的は?


 広大な砂漠で遭難の末、多くの歌姫たちがトップの座を争う高級ホテルに辿り着いたミュージシャンの日本人とその相棒が連続殺人の渦中に巻き込まれる館ミステリ。
 このミステリーがすごい!大賞15周年を記念して、歴代投稿作の中から拾い上げられた“超隠し玉”として刊行された一作で「このミス大賞史上初の直球本格ミステリ」の宣伝文句どおり、地理的要件によるクローズド・サークル内にて惨劇の嵐が幕開ける極めてオーソドックスな作風です。見取り図は勿論、風変わりな設計、密室、物理トリックととことん王道な舞台立ては2010年代の現在からするとどこか古めかしくもあり、時代がかったセリフ回しやキャラクターも懐かしの新本格を思わせます。図らずも新本格30周年のタイミングでこのような作品を送り出すことになったのは偶然か。

 各章のタイトルにはイーグルスの曲名が冠され、トミーが音楽の知識を用いて解決していくことがウリとされているものの、古今東西の蘊蓄が物を言う音楽ミステリと呼べる域には至っておらず、肝心のトリックそのものも逐一“音”を鍵にしているとはいえ、わりとよくあるネタから脱していないのは痛いところでしょう。多くの人が一度は耳にしたことのあるようなネタが散見され、作者ならではの視点や専門性に欠いた物足らないものになっています。館ミステリには珍しい砂漠のど真ん中という立地がまるで謎解きに活かされていないのも残念でした。
 加えてフーダニットにも大きな問題があります。そもそも本作ではホテルにどんな人物がどれだけ宿泊し、従業員が何人滞在しているのかがまったくわからず仕舞いのまま、ただ何となく作者の想定する漠然とした犯人候補の中から怪しい人物をピックアップしているに過ぎず、具体的に誰にどんな知識があって犯行が可能か不可能なのかの消去法が成立していないのです。検討されないといって良い。
 そのため、最後まで読んでも結局ホテルには何人泊まっていたのか把握できず、犯行時間に歌姫たちがステージ上にいたと言われても他の客への言及がないので読んでいる最中は「いったい誰を相手に?」と状況が飲み込めませんでした。大体からして名前のないモブの歌姫を20人近く抱えているにも関わらず個々人への聴取が描かれないのだから適切に絞り切れるわけがありません。

 作中にてホテルが砂漠の中に存在する都合上陸路での往来はほぼ不可能との理由から早々に否定される外部との行き来の可能性にしても、宿泊客は基本的に自家用ヘリを使い空路でやってくるという説明に基づけば各宿泊客の所有するヘリの台数やそれらを使用できる状況にあったのかどうかをまず考慮すべきで、実際ラストで多くの人間がそうしたヘリに乗り込む描写があるのだから推理の過程でそこにツッコミが入らないのはツメが甘いです。
 トリック、謎解き共に館ミステリとしては平凡な内容で、地雷とまでは言わなくともこのミス大賞の隠し玉(=落選作)であることを鑑みると、まあこんなものでしょうか。


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獅子宮敏彦『上海殺人人形』

上海殺人人形 (ミステリー・リーグ)上海殺人人形 (ミステリー・リーグ)
獅子宮 敏彦

原書房 2017-04-21
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★★★☆☆
1920年代の国際都市、上海。様々な勢力が暗躍する魔都で起こる連続不可能犯罪事件。現場に残されたカード、密室状況……。しかしそれが解かれても、真犯人・上海デスドールの姿はとらえきれないでいた。


 上海の闇に跳梁する暗殺者・上海デスドールによる奇怪な殺人の数々を、冴えない新部記者が追う連作ミステリ。
 獅子宮敏彦のおよそ3年ぶりとなる新作は世界情勢がキナ臭くなる前夜の上海を舞台にアクロバティックでバカミス上等なトリックがこれでもかと炸裂する、作者の持ち味全開な1作です。高級ナイトクラブの人気No.1にして上海の夜に咲く“ピュアドール”の異名を持つヒロイン、犯行現場に常にカードを残し演出過剰なまでに不可能犯罪を徹底する殺人者と大時代的な雰囲気づくりもミステリー・リーグらしさに溢れています。
 かつてノックスの十戒では「中国人を登場させてはならない」というルールが提唱されました。これは当時のイギリス人にとって中国は未知なる文化圏であり、東洋の神秘が何でもありを可能にする方便に使うことへの警句であったことから、国際理解が進んだ現代においてはいわゆるネタ扱いをされることが少なくありません。ところが本作では1920年代の上海という魔都が漂わせる何とも言えない胡散臭さ、得体の知れなさが荒唐無稽で開いた口の塞がらないようなトリックを“破天荒で実現性皆無なファンタジー”から現実的なラインにまで引き下げる役割を果たしていて“この舞台設定ならアリかもしれない”と思わせてくれます。中国人だからこそ、このミステリが成り立っているのです。

 愉快犯じみた暗殺者が敢えて不可能性の高い犯罪に挑み、装飾過多な演出を行う理由付け、行動の矛盾を炙り出して指摘していく点などロジック部分も悪くなく、ミステリにおけるツッコミや命題をクリアしていく意識の高さも感じられますが、フーダニットは完全に捨ててしまっているのがやはり瑕でしょう。推理の過程で読者を振り回そうとも、最後にはあらすじを聞いた段階で誰もが想像した場所に何の衒いもなく着地してしまうため、すべての意外性を殺しています。
 結果、見どころがなかったわけではないにせよ予定調和な凡作――犯人がわかりやすすぎているぶん下手をすればそれ未満、といった評価に収まってしまったような。終わり良ければすべて良しとはよく言ったもので。終わり方、大事です。


家原英生『(仮)ヴィラ・アーク 設計主旨 VILLA ARC(tentative)』

(仮)ヴィラ・アーク 設計主旨  VILLA ARC (tentative)(仮)ヴィラ・アーク 設計主旨 VILLA ARC (tentative)
家原 英生

書肆侃侃房 2017-03-07
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★★★★★
川津たちが招かれたのは、断崖に建つ「二本の筒が載った家」。彼らを迎えたのは不可解な表札「ヴィラ・アーク」。豪華な館訪問という楽しいはずの旅に、やがて暗雲が漂いはじめ、事件が起こる。消えた黒猫を捜すうちに一人、また一人と行方不明者が……。建物の設計に隠された秘密とは何か? 謎は深まる。やがて嵐がおさまり、真相にたどり着いたかに見えたとき、突然、爆発音が轟く。謎は建築家たちによって紐解かれ、最後に明かされる建物の「設計主旨」とは。


 第62回江戸川乱歩賞最終候補作。セルフビルドの増改築によって建てられた奇妙な自宅を訪れた建築事務所のメンバーの飼い猫が姿をくらませたことに端を発する、一級建築士の手掛けた館ミステリです。
 改めて述べるまでもなくミステリ――特に新本格においては古今東西様々なお屋敷、お館、大豪邸がこさえられ、その度に珍奇な外観や拘り抜かれた建物名、趣向を凝らした仕掛けの数々は多くの読者を喜ばせてきました。同時に、それらの醍醐味であり、お約束ともいえるダイナミックなトリックが、ときに空想的で非現実的な実現不可能な代物として「建築法を守らない」などと揶揄されることがあるのも事実です。
 そんな物語の中にのみ存在し得る本格ミステリのお館を、一級建築士の視点からアプローチしたらどうなるのか。その惹句だけでも既に最大級に魅力的で、これはもうつまらないわけがありません。作者は実際に街づくりの現場にて第一線で活躍し、いくつもの賞をとった実績のあるプロであり、その経歴を見ただけでも期待度がいや増します。
 書肆侃侃房なる聞き馴れない版元は福岡の出版社だそうで、作者が福岡在住であること、物語の舞台が九州であることが縁だったりするのでしょうか。

 注目すべきはそのカラクリ以上にヴィラ・アークという建物に込められたテーマ性です。既存の館ミステリの類に漏れず、本作もまたスケールの大きなギミックが用意され、一切の逃げなく見取り図に記されるままに設計されてなお読み手を驚かせてみせます。しかもこれらの仕掛けは他ならぬ、法律で定められた条件を通す目的に行われているのです。建築法を守らないのではない。建築本を遵守するが故に、それをクリアするための手段がそのままミステリとしてのカタルシスに変換される。これぞ本職たる建築士の為せる業でしょう。
 加えて、今作に登場するヴィラ・アークは数多の館ものに引けを取らない驚天動地の建物でありながら、至極理想的でこの上なく現実に即した構造の下に創られている点も見逃せません。副題にも掲げられた“設計趣旨”――本書を読み終えたとき、恐らく大多数の人間は感銘を受け、納得し、そこに託された想いに心動かされるハズです。これこそがいま求められる建築の新しい在り方かもしれない。
 まさに事実は小説より奇なり。真に実用性を重視し住む人の安全を追求した結果、現実がフィクションを遥かに凌駕してしまう。そしてその究極ともいえる発想が現行法では認められない歪。その問題提起によって館ミステリが社会派ミステリへと一気に反転するのです。

 乱歩賞落選作ですがどちらかといえばメフィスト賞寄りのアプローチで、仮にそちらの方に投稿されていたのなら一発受賞だったのでは。本書が地方出版社から刊行されたマニアックな1冊として人の目に触れられずに終わってしまうのはあまりにも惜しいし、この作者にはこれからもバンバンとミステリを書いて頂きたい。
 新本格30周年のメモリアルイヤーにこのようなミステリが上梓されたことは大変興味深く思います。新本格というステージをさらに一歩押し上げた傑作です。


ジェームズ・ルシーノ『スター・ウォーズ カタリスト(下)』

スター・ウォーズ カタリスト 下スター・ウォーズ カタリスト 下
ジェームズ・ルシーノ 来安めぐみ

ヴィレッジブックス 2017-05-31
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★★★★☆
ジェダイなら、ここはフォースが強い、と言うでしょうね
クローン戦争は終結し、新たな時代が訪れた。だが、同時に最も暗い星が昇りつつある……。アーソ一家を分離主義者の手から救い出し、ゲイレンがエネルギー研究を続けることができよう環境を整えたクレニックだったが、それはデス・スター建造をついに実現させるという計画のためだった。エネルギー研究の成果は純粋に利他的に使われると信じていたがゲイレンだったが、妻ライラは夫の変わり様とクレニックの不可解な行動に疑問を持ちはじめていた――。


「スター・ウォーズ カタリスト」下巻。
 『EP3』の2年後、17BBYに突入しいよいよ本格的に動き出すデス・スター計画。それに伴ってゲイレンはそうとは知らずカイバー・クリスタルの研究に一層のめり込むようになり、愛すべき家族との距離が徐々に離れていることにさえ気付かない。ジェダイ・オーダーが崩壊したことでカイバーを容易に入手することが可能となって計画全体が飛躍的に進んだ反面、これまで秘されてきたクリスタルの構造分析とエネルギー転用に時間が掛かったとしたのは上手いですね。『EP3』ラストでお目見えされたデス・スターの完成に19年の歳月を費やした事実に対する理屈付けとして、レジェンズの政治上の問題で度々停滞せざるを得なかったという設定よりも自然です。
 デス・スターの絶大な威力の源をライトセーバーと同一に求めたことが皮肉となっているに留まらず、有無を言わさず納得させる説得性も備えています。『Ahsoka』で物議を醸したライトセーバーの新設定はむしろ、『ローグ・ワン』制作に合わせてこちらの方面を強化する狙いが大きかったのかもしれません。

 時代設定が17BBYなのも珍しいです。旧レジェンズでは何だかんだで新旧三部作の間の出来事は『EP3』直後の18BBYか『EP4』直前に偏っていたため、共和国→帝国の変遷期から少し先の新体制が根付き、落ち着きつつある本作のような年代はあまりなかったように思います。そんな中で、辺境に着々と手を伸ばし強引な手段で帝国に組み込むやり口やコルサントに僅かに残る保護区さえも開発してしまう慈悲の無さは後に見る帝国らしく、そんな銀河の向こうの出来事や大局などまったく関知しない一般人同然の視点が大きく取り上げられているのが『カタリスト』の特色にして興味深いところです。
 そうしたこともあってか、本作では皇帝の代わりに表舞台を取り仕切るマス・アミダの出番が多く、殆ど全編出ずっぱりなのには驚きました。パルパティーンがおいそれとは名前を呼んではいけないあの人になってしまった以上、マス・アミダが名実共に帝国の“顔”なんですね。映画本編でもパルパティーンの側近として印象を残していたとはいえ、よもやカノンでここまで出世しようとは。デンガー、タッグ、ナイン・ナンと並んでカノン化によって大きく救済されたキャラクターではないでしょうか。
 パルの腹心といえばスライ・ムーアの姿が影も形もないのですけれど、出身惑星のアンバラでは反抗運動が続いているとの記述と関係があるのかないのか……。男女の違いはあるとはいえ『EP7』から始まる続三部作の最高指導者スノークに似ているだけに気になります。

 もうひとつのブリッジ要素としてはソウ・ゲレラの登場も見逃せません。言わずもがなソウは『ローグ・ワン』冒頭にてライラが斃れゲイレンがクレニックに連れ去られた後、ジンを引き取って育てた人物ですが、『クローン・ウォーズ』で初登場を果たした頃からバリバリの好戦派で、根っからの研究者一家であるアーソ夫妻と友人関係にある点にいまいちピンとこないものがありました。しかしながら本書を読んで納得、ライラとゲイレンがクレニックに疑惑を抱くきっかけを与えた密輸業者ハズ・オビットを通してアーソ一家と知り合ったわけですね。
 ハズは元より行く先々でたくさんの大人たちを魅了し、誰にでも懐く幼いジンは成長後の芯の強い彼女とはまた違った愛くるしさです。他の登場人物たちと比べてセリフに漢字を使わず、会話文がひらがなになっているのも細かく、これは翻訳者さんGJでしょう。

 ちなみにライラはフォースを操ることはできずとも何となく感じ取ることはできているようで、この辺の描写はチアルートのそれと同様のものなのかなぁと。『反乱者たち』のベンドゥの教えを含め、カノンの「SW」ユニバースはフォースについてジェダイやシスの教義にあるライトサイドとダークサイドとは別の視点で語られることが多く、フォース感応者/非感応者に関わらず銀河全体がフォースを中心に回っている印象です。
 個人的にはカノンのこのフォース観はあまり好きではないのですけれども、それはともかくこのフォースに善悪も光と闇も存在せず“ただフォースがある”という考え方から『EP8』ひいては続三部作の「最後のジェダイ」というワードに繋がっていくのかな、と予想しています。

 しかしまあ上巻の感想でも書いたとおり、クレニックが帝国への野心を捨ててゲイレンがもっと早い段階で研究の誘惑を断ち切れていればふたりには幸せな人生も待っていたような。ゲイレンを逃したクレニックの怒りは裏切られたそれをぶつけたというよりも、友に理解されなかった悔しさの方が大きいように感じられました。

ジェームズ・ルシーノ『スター・ウォーズ カタリスト(上)』

スター・ウォーズ カタリスト 上スター・ウォーズ カタリスト 上
ジェームズ・ルシーノ 来安めぐみ

ヴィレッジブックス 2017-05-31
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★★★★☆
戦争に見つかってしまった。
共和国と分離主義勢力の争いはさらに熾烈さを増し、双方が新兵器の開発に躍起となる中、共和国軍少佐オーソン・クレニックは、最高議長の機密機関である先進兵器研究部の代表として、敵勢力を圧倒する超兵器の開発を迫られる。クレニックの命が懸かった超兵器開発計画の成功の鍵は、気鋭の科学者でありクレニックの盟友でもあるゲイレン・アーソが握っていた……。


 カノンの邦訳「スター・ウォーズ」小説最新作は昨年12月に公開された実写劇場用映画初のスピンオフ作品『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の前日譚、『カタリスト』! 本国では映画に1ヶ月先駆けてのリリースだったので、なんと発売半年での日本語版刊行という驚異のスケジュールです。
 『ローグ・ワン』の主人公、ジンの父親にしてデス・スターの開発者であるゲイレン・アーソとその妻ライラ、共和国で特殊兵器部門を担うオーソン・クレニックが中心となる本作は、『ローグ・ワン』『クローン・ウォーズ』での展開を踏まえた新たなカノンとしてのデス・スター建造計画の全容を描いた物語です。旧レジェンズではレイス・サイナーやベヴェル・レメリスクといった錚々たる面々が参画し、モー秘密研究所やデスペイヤーといったロケーションからプロトタイプの存在、デス・スターの乗員たちの視点で完成前夜に迫る小説『デス・スター』の存在など、その経緯はギチギチまで凝り固まっているほどでしたが、そうした旧設定をすべて刷新し、信頼と安心のジェームズ・ルシーノの手によって「スター・ウォーズ」におけるデス・スターのオリジンが再構築されています。
 『EP4』に直結する『ローグ・ワン』の過去編が新三部作時代の、それも『CW』の真裏を舞台にしていたのは意外でした。前線で戦うでもなく、まともな戦況すらも耳に入ってこない民間企業で働く一介の銀河市民であるアーソ夫妻の視点は“歴史の横道”と呼ぶに相応しく、いつの間にか戦争が激化し、ある日ぴたりと終わってしまったことにも蚊帳の外の出来事のようで実感が沸かない。好きな研究に没頭し、一家3人でただ平穏に暮らせればそれで良い。そんな彼らがクレニックの策謀によって銀河の命運を握る悪魔の兵器に関わるどころかその中心に気付かぬままに据えられていく様は、劇的な何かが起きて状況が変化するより断然恐ろしいです。

 とはいえ『ローグ・ワン』の経緯や筋だけ聞けば目的のためにあれこれ手を回し、友を利用するのも厭わない冷血漢の見えて、クレニックは実に人間的魅力に溢れたキャラクターでもあります。学生時代のどんちゃん騒ぎが伝説になっていたり、女性に一切興味なしなゲイレン・アーソが恋をしたと聞かされてその相手がどんな人物なのか気になって仕方なかったり、友人自らデス・スター開発に参加するよう仕向けと思ったら予想外にも一緒に会社を興すことを提案されてお口あんぐりでその提案に一瞬揺らいでしまったり――。クレニックはフューチャーズ・プログラムで出逢ったちょっと変わった天才をよく理解していながらその突飛な行動にしばしば振り回され、ゲイレンはクレニック本人以上にオーソン・クレニックの資質と人となりをわかっている。
 結局のところクレニックは有能だけど常人なんですよね。どんなに頑張ってもヴェイダーやターキンといった歴史に名を残した人物たちとは並び立てない。だからこそより野心を抱き、より高い地位に就くことも渇望する。でも、その終着点がわれわれのよく知る『ローグ・ワン』の結末なわけで。
 学生時分から共和国で働くことを目標にしてきたクレニックだが、彼にはもっと適した居場所(=自分と新しい会社を立ち上げる道)があるんじゃないかと思うゲイレンからすれば、裏工作であくせくコネを作りパワーゲームに苦心する今の姿はクレニックらしさを殺した状態に見えていたんでしょうね。この小説を読んでクレニックというキャラをかなり気に入りました。
 『ローグ・ワン』のベイズとチアルートはもしかするとクレニックとゲイレンの“あったかもしれない姿”だったのかもしれません。
 ゲイレン・アーソの内気で人付き合いが苦手だが頑固、研究を前にすると寝食も忘れ、思いつくと途端に怒涛のように喋り出す性格付けも従来の「SW」にはなかったタイプのように思います。しかしそこは父親、生まれたばかりのジンの瞳の色がまだらに見えるのを星のようだと表現し、スターダストと称するシーンには思わず「繋がった!」と手を叩いてしまいました。スターダストという愛称にはそんな美しい意味が込められていたんですね。

 またデス・スター建造計画に絡んでポグル大公が主要人物のひとりになっているのも見逃せないポイントです。デス・スターの建設にジオノージアンが大きく関わっていたことは『EP2』『反乱者たち』、コミック『ダース・ベイダー』で明らかながら、そこに『CW』で捕まったポグル大公を絡めることで共和国により推し進められたことへの必然性を与え、且つ打ち切りにより『EP3』との間に生じてしまった『CW』で収監されたポグル・ザ・レッサーが『EP3』でジオノーシスにて殺害されている矛盾についても明確なアンサーを用意しているのです。実際、この辺の流れは実にスマートで後付けによって設定面がサグラダ・ファミリア状態に陥っていたレジェンズの何倍もわかりやすく整理されているのではないでしょうか。
 気になったのは計画には以前からターキンが関わっていたという話もある、との記述で『ターキン』の内容と擦り合わせるとターキンがデス・スターに関わるようになったのは14BBY以降となるハズ。これは旧レジェンズ時代にはデス・スターが『ローグ・プラネット』でゾナマ・セコートの存在を知ったターキンの案に端を発していたことへの目配せかしら。
 まああくまでもクレニックの聞いた噂でなので齟齬と言うにはオーバーにせよ『ターキン』『カタリスト』『ローグ・ワン』と時系列があっちゃこっちゃ飛んでいるので自分も細かい部分で理解が追いついていないかもです。
 代わりといっては何ですが、デス・スターの球形が意志ある惑星ゾナマ・セコートを模した設定から通称連合のコントロールシップの発展型という形で落ち着かせたのはなるほどなぁと。

 デス・スターにはライトセーバーの核と同じくカイバー・クリスタルが用いられているという近年敷かれた設定を大きく掘り下げている点にも注目です。オーダー66後のアソーカを主役にした小説『Ahsoka』においてライトセーバーの設定変更がなされ、日本でも大きな話題となったのは記憶に新しいところですけれど、本作でもそれに倣い“生物と無生物の中間的性質”を持つ生きた鉱物、カイバー・クリスタルはデス・スター開発を要とする本書では重要な位置を占めています。生きたクリスタルというと、アナキン・ソロがライトセーバーに使っていたユージャン・ヴォングのランベント・クリスタルみたいなものなのかな。デス・スターにも使用されるカイバーは特殊な内部構造のみならず近くにいる人間に不眠を引き起こす副作用もあるらしく(フォースで繋がろうとしている?)良い面ばかりとは言えない代物です。
 その性質と希少性故にジェダイは神聖なモノとして扱い、簡単には触れさせぬよう守ってきた一方、強大なエネルギーを生み人々の生活を豊かにする可能性を秘めたそれを己が利益のために独占してきたとヘイトを煽る要因にもなっているのが絶妙です。これによりパルパティーン殺害未遂の謀反による信頼の失墜をさらにダメ押し、帝国がカイバーを集める大義にもなっている。上手いこと考えられています。
 カイバーのもたらす効果が必ずしも人々にとって“善”とはいえないあたりも今後の「SW」ユニバースに対する含みのように思えます。

 ちなみに本作ではなんと「NJO」でチューバッカ亡き後、ハンの相棒を務めたドローマの種族リンがカノン入りを果たしており、レジェンズファンには嬉しいニュースでした。さすがはルシーノといったところです。
 というわけで、下巻に続く!


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プロフィール

はろーすみす

Author:はろーすみす
シリーズものも平気で数年寝かせる積読家。本格ミステリとスター・ウォーズ小説を中心に読み漁り、新刊・話題作はあまり追っていません。

好きなミステリ作家は古野まほろ、はやみねかおる、西尾維新、霧舎巧。
ジャンル外では築山桂と小川一水。
講談社ノベルスをこよなく愛す特ヲタ。

当ブログはリンクフリーです。
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2014年のベスト5

2014年に読んだ小説の       (暫定)ベスト5はこれ!!

2012年のベスト5

2012年に読んだ小説の        ベスト5はこれ!!

2011年のベスト5

2011年に読んだ小説の          ベスト5はこれ!!

1.トリプルプレイ助悪郎(2007年刊)   2.名探偵に薔薇を(1998年刊)             3.化物語(2006年刊)          4.時砂の王(2007年刊)                  5.天帝の愛でたまう孤島(2007年)

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